2020.02.10 Mon

Written by EDGE編集部

Jリーグ&国内

久保田コラム「日本語のサッカー指導で世界をひっくり返す(4)」武道の間合いと呼吸でイニエスタを育てる

これまでの当コラムでは、サッカーの現場において「日本語」をもっとうまく活用して指導に活かす、という観点で書いてきましたが、今回は少し主眼を変え「日本ならではのもの」をサッカーに活かせないか、という観点で書いてみたいと思います。日本文化の一つである「武道」から学べること、そしてサッカーに活かせる日本語とは。(文・久保田大介)

以前、東京で某都立高校女子サッカー部のコーチをしていた頃、男子サッカー部の顧問をされていたベテランの体育の先生が、熱く話をしてくれたことがありました。

この先生は剣道が専門で、サッカーは未経験。しかし、この先生がしてくれた話が、とても面白かったんです。

特に興味深かったのが「剣道は、相手の呼吸を視る」という話です。

「相手と対峙し、向き合う局面が多いサッカーにも、この概念は活かせるんじゃないか?」と。

まだ若かった自分は、目からうろこ状態。この先生の虜になって、食い入るように話を聞かせてもらった記憶があります。

先生いわく

「人は、息を吐く瞬間はすぐに動けない。だからその瞬間に加速すれば、簡単に抜いていけるはず」

そして「マラドーナは、それができていた」と。

「剣道に限らず武道は日本の文化。その特性をもっと取り入れてもいいんじゃないか。俺、いくらでも教えるのになぁ」とも仰ってました。

確かに。日本発祥の武道から、学べることはとても多いように感じます。むしろ、身近にあるものから学ばないのは、とてももったいない話です。

特に「間合い」について。剣道、柔道、空手、相撲、合気道、躰道…。

全て「間合い」の競技ですよね。

サッカーも、間合いの局面がとても多い競技です。その意味では、個人戦術の観点で、間合い文化の武道から学べること、もっと取り入れてもいいものがたくさん隠されているのではないでしょうか。

相手を振り切る、相手から振り切られない、相手の目線、呼吸、足の運びから相手の頭の中を覗き、先を取る。個人vs個人だけでなく、グループやピッチ全体での考えにも広げられると思います。

そして武道の世界で原理原則として使われている「日本語」をサッカーにも取り入れ、その意味や特性を日本人で共有し、サッカーの指導に活かせないものか…。

今回は、そんなお話です。

———————

和歌山県立粉河高校サッカー部の監督をされている「わっきー」@kumaWackyこと脇真一郎さんが、つい先日、自身が剣道をされていた時のことをTweetされていました。

わっきーさんのTweet
↓↓
剣道をしていた時、相手と正対して意識していたこと
・目線は相手の目に固定しながら、相手の流れ全体を「捉える」
・駆け引きの要として
「相手の呼吸をこちらに同調させる」
「後の先を導くため常に一瞬未来を視る」
「正中線をズラして相手を崩す」

おぉ、あの先生が仰っていたことと通づるものがあるじゃん…!と。

そこで早速わっきーさんとコンタクトを取り、主に 呼吸、後の先、正中線 について、解説してもらいました。

以下、わっきーさんの説明です。

 

《 相手の 呼吸 をこちらに同調させる 》

これはただの呼吸だけでなく、テンポのようなものも含みます。

例えば、1秒刻みで一歩ずつ前後にステップを踏みながら相手と向き合い駆け引きをしているとします。

この時、こちらの「前→後ろ→前・・」という動きのテンポに、相手は「隙」を伺うこととなります。

こちらのテンポに相手が意識を向けるほどに「同調(シンクロ)」が起こります。

そうすると、どこか意識の下層において「前の次は後ろに動く」という「固定観念」のようなものが、相手に発生します。

その、逆をつく。

この場合だと、前→後ろのテンポの時に後ろに動くように見せた瞬間に技を放ちます。

シンクロしているほどに相手は動くことも出来なくなります。

これを呼吸とか重心とかと連動させると応用の幅が広がりますね。

動的ボディメカニクスとも言えるのかな?

 

《 正中線 をズラして相手を崩す 》

これは呼吸の話と共通するかと思います。ようはこれ『相手の正中線』を乱すための駆け引きに呼吸を使っている、という感じです。

正中線はより「重心」とか「バランス」に焦点を当てているイメージです。

サッカーにおいては個人だけでなく組織にも正中線は存在するかと思いますので、そこまで含めて駆け引きが出来るとすれば、個人的にはすごく面白いはずだと思っています。

 

《 後の先 を導くため、常に一瞬未来を視る 》

これは「フェイント技」に顕著です。

簡単に言うと「この動作に相手はこうリアクションせざるを得ないから、さらにその先に生まれる隙をつく」という感じで、基本的に「初手の結果を確認せずに未来のビジョンめがけてプレーする」感じです。

ただ、それは剣道のような時間圧縮率の高い競技だからかなと思いますので、サッカーではリアクションを確認しながらベターな手を選ぶことは出来ると思います。

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快く協力して下さったわっきーさん、ありがとうございました!

わっきーさんの見解にある《相手の呼吸をこちらに同調させ、その逆をつく》

このわかりやすい事例を、先日のゼロックススーパーカップでイニエスタが魅せてくれました。

ヴィッセル神戸の先制点。中盤やや左寄りの位置で古橋からのパスを受けたイニエスタが、ゴール方向へドリブルを仕掛けます。

動画を観ると、イニエスタのステップとリズムに、マリノスのCB、チアゴ・マルチンスと畠中慎之輔が完全に「同調」させられてしまっているのがよくわかります。

さらにチアゴと畠中は、イニエスタに対してだけでなく、味方同士で、お互いが同調させられてしまっている。

その後、イニエスタが右足でボールを右に持ち出した動きにチアゴと畠中の動きがさらに揃い、ふたりの両足も揃って地面についたその瞬間、おそらくふたりは息を吐いているはず。

瞬時に動けないその一瞬の虚をついて、イニエスタがふたりの間をひょいっと浮かしてドウグラスへパスを出す。

この浮かせパス、昔からイニエスタの真骨頂ですよね。地面にパスコースはなくても、相手の膝上にはコースがある。

イニエスタの「タン、タン」というボールタッチのリズムに同調していたふたりの時間を壊し「タン、タタン!」と出した、本当に一瞬の煌めき。

間合い、同調、呼吸。

イニエスタがふたりの呼吸までをも意識していたとは思えないけれど、イニエスタが昔から磨き上げてきた「相手を見切り、相手との間合いをコントロールして、その逆や虚をつく」プレーが、如実に表れたスーパーアシストでした。

イニエスタすげぇなー、何であんなタイミングでパス出せるんだろ、イニエスタすげぇなー。チアゴ畠中、なんですぐに動けないんだよ。まぁ、イニエスタがすごいからかなー。やっぱイニエスタ神やな!

ではなくて。

これを、武道から学べる間合いの原理、人間の動きや呼吸の原理で、僕ら日本人コーチが子ども達にわかりやすく説明できたら。

「こないだのイニエスタのアシストなんだけど」
「ドリブルで相手のリズムと呼吸をこっちに同調させてさ、相手の時間を止めて、その一瞬の虚を突いてるやん」
「イニエスタには、相手がそうなることがあらかじめ見えてる。だから、彼からすれば予定どおりのシンプルなプレー。こないだ話した《後の先》ってやつよ」
「ボールの持ち方、リズム、視線…どうすれば、相手を同調させて後の先を取っていけるかな?」

日本中で、面白いことが起こせる気がします。イニエスタは、きっと育てられる。

これについては、次回さらに詳しく。

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リバプールやライプツィヒでは、スローイン専門のコーチを採用しているそうです。

ならば、「こう捉え、こう考え、実際にこういう手段で相手を切り崩す」といった、武道出身でサッカーは専門外だけど、相手との駆け引き術に長けている「駆け引き専門家」がいても良いのでは?

種目の垣根を越えて連携し、この国独自の「勝負の極意」を共有していくこと。これ、なんかワクワクしません?

特に武道の感覚は他国にはないものなのだから、そこで日本独自のフットボールを生み出せる糸口になるのではと、個人的には強く思っています。

スペインをはじめとする、海外の一流国から学ぶことはとても大事。学ぶことは一生続けなければなりません。

しかしそれと同時に、僕はいつかスペインに勝ちたい。スペイン人から「日本とやるとめっちゃやりにくいんやけど。どうなってるん?」と言わせたい。

スペインを鮮やかに崩し切ってゴールを奪い翻弄する、スペイン相手にボール支配率で圧倒する。そんな日本代表を見てみたいんです。

だから、彼らがやってないことを探し、そこにトライする。これを「どうせ無理」「ただの理想」と言っているうちは、日本が世界で勝つことは一生来ないとも思っています。

次回は
「正中線」と「後の先」の続き、そして柔道、合気道、キックボクシング(実は日本発祥)の「言葉」や「見方」から学べること…。

さらに個人vs個人からチーム全体へと話を広げ、日本語を用いてサッカーの新たな見方、捉え方を見つける。

そんな切り口へと続きます。

<プロフィール>

久保田大介

サッカーコーチ
ロボスフットボールクラブ・代表(
https://www.footballnavi.jp/lobos/

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