2019.11.15 Fri

Written by EDGE編集部

インタビュー&コラム

久保田コラム「日本語でのサッカー指導で世界をひっくり返す(3)」サッカーにおける、見ると観る、眺めるの違い

日本語の良さを最大限に活かして指導をすることで、日本サッカーのレベルアップを目論む久保田大介氏による新連載。今回は日本語の持つ抽象性の利用、イメージとして言葉を共有すること。解釈の差こそ自由であるというお話です。

海外やJFAからの知識、そしてインターネットやSNSなどから、いくらでも情報が得られる現在。指導現場では、様々な「言葉」が飛び交っているように思えます。

技術や戦術を表す様々なサッカー用語。それを用いて、そのまま伝える。でもそれは選手達に、本来の意味で伝わっているのか。情報を得たことで、知識が増えたと勘違いしていないか。

指導現場での『言葉』は、目の前にいる選手達のカテゴリーやレベルに合わせ、一番伝わるように調理して、分解してから伝えないといけないのに、そこをすっ飛ばして直接的に選手達に浴びせるだけでは、何も伝わっていないのではないか。

むしろ指導者が思い描く一つの理想や正解だけを選手達に押しつけることになり、結果的に選手達の「発想の自由」を奪ってやしないか。

単なる、指導者の自己満足で終わっていないか。

僕ら日本人指導者は、せっかくならば日本語の特性や響き、そして長所も短所も理解した上で、それを最大に利用し活用して、子ども達への指導に活かしたいじゃないですか。

日本語での指導で世界に近づく、追いつく、いつかはひっくり返す。そのための方法やアイデアは、数多くあると思います。

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【 日本語の持つ抽象性を利用する。そこに自由や個性が生まれる 】

俳句の夏井いつき先生が、こう言っていました。

例えば「空が青い」ことを伝えたいのだとしたら、そのまま表す「青空、青、空」を使わずに句をつくり、でも「きっと青い空がこういう風に綺麗なんだろうな」と、情景を読み手が自由に思い浮かべられるような句が、良い句なのだと。

伝えたい用語をそのまま使ってしまうと、決まった一つの情景だけを伝えることになりやすい、と。

歌手のあいみょんも、同じようなことを言っています。

「歌詞はなるべく抽象的に。あえてわかりづらくして、聴いた人達が自由に想像できるようにつくりたい」と。

これ、サッカーの指導でもそのまま当てはまるように思います。

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パスを出す、ドリブルをする、シュートを打つ、ボールを守る。これらは、すべて名詞+動詞ですね。

「ちゃんとコントロールオリエンタードしろ!」

子ども達にこう言ってる人を見ると、クラクラしてきます。

ここでは「パスを出す」を例に挙げて考察してみましょう。

「パスを出す」だけだと、あまりにも大雑把すぎますよね。だから、できれば子ども達には「どのように」を付けて伝えたい。

やわらかく渡す、さりげなく渡す、ズバッとつける、まずは預ける、一旦預ける等々…。

「やわらかく」といった形容詞や「ズバッと」のような擬音(オノマトペ)。「まずは」「とりあえず」「一旦」などの「時」を伝えるフレーズを利用して言葉にすれば、同じ一本のパスでも「パスを出せ」よりは、その形態や情景は大きく変わってきますよね。

しかも「やわらかく」「さりげなく」「ズバッと」などの形容詞や擬音は、選手個々によって尺度も強度も程度も変わってきます。

「まずは」「とりあえず」「一旦」等の「時」の解釈も、選手によって0コンマ何秒かの微妙な違いがあるはずです。

だったら味方と合わないからダメじゃないか、ではなくて

だから、良いんです

やわらかく、さりげなく、まずは、とりあえず、一旦…。

プレーモデルの一つにもなり得るこれらの「言葉のベース」はチーム内で共有している。でもそれをピッチ上の11人全てが同じように揃えて同じように解釈してしまっては、どこでも誰でも同じ判断と同じプレーしかしない“金太郎飴”が出来上がってしまうかもしれません。

ましてや先生や監督、コーチなど「大人の言うこと」に従順になりがちな日本の子ども達に一つの尺度や正解を決めつけのように言ってしまえば、きっと全員が、同じようにプレーしようとしてしまうのではないでしょうか。

チーム内で共有している言葉のベースはある。しかしあくまでもそのベースの中で、その言葉に対する選手個々の解釈、それぞれのさじ加減による誤差は生まれてくる。

しかしその誤差こそが、サッカーにおける【自由】そのものなのだと、自分は思っています。そこに、選手の個性や魅力も表れてくるのではないでしょうか。

その誤差を味方同士で理解していれば、相手よりも早く対応できる。つまり「本当の早さ」が生み出せます。「誤差という名の自由」を利用した早さ。それこそが、本当のチームワークとも言えるのではないでしょうか。

チーム内で共有するベースは守る。でもその中で、お互いの違いを受け入れ理解し、それを利用して相手よりも早く動いていく。

日本人、実はこういうの得意なんじゃないですかね。

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「《パスを出したら動く》では遅いから、これをもう少し速くなるように言い換えてみて」と、うちのクラブの中学生達に問いかけたら「出しながら動く」と答えた選手がいました。

なるほど … 。

これをもっと速くしたければ「動きながら出す」になるよね、とも。

「動きながら出す」

この表現の仕方は、選手によって様々。そこは自由。

言い換えひとつで、選手達の速さが変わってきます。

もう一つ。

「相手からボールを奪ったら、まずは《ふんわりと》味方に《渡して》ごらん」

これ、子ども達に言ってみて下さい。その子だけでなく周りの味方も巻き込んで、面白い現象がきっと起きてくるはずです。

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「最果タヒ」という詩人さんがいるのですが、あるインタビューで、彼女が「漢字だと意味が限定されてしまいがちだから、なるべくひらがなを使いたい」と言っていました。

解釈、情景は読み手に委ねる。夏井先生、あいみょんと同じですね。

「橋」「箸」「端」

全て同じ「はし」だけど、漢字にしてしまうと、それが何なのか、ひと目で分かってしまいます。

では、今度は少しサッカーに絡めた言葉で… 「みる」はどうでしょうか。

「周りみろ」「ボールみろ」

耳で聞く響きは同じでも、漢字にすると、見る、観る、視る、診る、看る … 意味は一気に変わってきます。

漢字にすると、意味が限定されてしまいますが、使い方によっては、漢字は有効活用できるはずです。

「みる」をサッカーで使うとしたら「見る」と「観る」くらいでしょうが、この二つでも、意味も情景も違いますよね。

なるべく意味を限定しないように伝えたい、と前段では書きましたが、逆に意味をしっかり理解させたい時やもっと共有させたい時、さらに意味や形態の違いを子ども達に伝えたい時に、漢字を用いるのはとても有効だと思います。

サッカーでは、ただ「見る」んじゃなくて「観る」の方だよ、とか。

【 見るを使った言い換えシリーズ 】

・見てもいいけど、見つめちゃダメ

・見るというより、観る

・観る、もしくは眺める

これだけでも、子ども達の頭の中は少しずつ変わってくるんじゃないでしょうか。

ひらがなと漢字、さらにはカタカナもある日本語って本当に便利。

これ、サッカーに活かさないのは非常にもったいないと思いませんか?

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最後に、守備時における日本語の使い方について、少しだけ触れてみようと思います。

多くの子ども達は守備よりも攻撃が好きだし、できれば守備やりたくないし…とか。チーム内の練習でも、攻撃に時間を割くことの方が多いのではないでしょうか。

でも「守備も楽しいよね」と思ってほしいので、そこに企みや目論みをふんだんに交えてトレーニングしていくことで、守備の楽しさも伝えることができるのではないかと思ってます。

「守備の時こそ、相手のボールを攻撃するんだ」

「邪魔しに行こう」

「守りやすくするには、どう攻撃すればいい?」

インターセプトを狙いたいので、駆け引きの手段として「気づいてるけど、気づいていないフリをしとこう」とか。

こう言うと、立ち位置や相手との間合い、目線の配り方をも、子ども達は駆け引きをするようになってきます。その駆け引きの仕方は人それぞれ。楽しいですよね。

数年前、ある強豪校の女子中学生を指導していた時の話です。相手ボールをインターセプトして、そのままドリブルで攻撃参加するのが得意なセンターバックの選手がいました。

で、インターセプトする時、彼女がいつも「ヤッホー!」って言いながら、相手のボールをかっさらっていくんですよ。とても天真爛漫でポテンシャルも半端ない子だったのですが、彼女は、相手との駆け引きを常に楽しんでいました。

その後、彼女はアンダー世代の日本代表にも選ばれ、今では強豪大学でプレーをしています。

その彼女の話を、うちの小学生達にも話をしました。それから、うちではインターセプトのことを「ヤッホー狙ってこう」と、共有するようになりました(笑)

ひとつの言葉でプレーを共有すると、そのプレー自体をもっと楽しくできるようになるし、そこに選手個々の思惑や企み、狙いや準備が相まって、駆け引きするのが楽しくなってくる … そんな気がします。

普段、何気なく使っている言葉を少し言い換えてみると、子ども達の反応が急に変わったり、いい変化や化学反応、相互作用が生まれてきます。

日本語の可能性はたくさんあると思うので、まだまだ、探求を続けていこうと思っているところです。

 

<プロフィール>

久保田大介

サッカーコーチ
ロボスフットボールクラブ・代表(
https://www.footballnavi.jp/lobos/

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