2017.09.20 Wed

Written by EDGE編集部

アジア

海を渡った指導者たち〜第12回・林雅人(浙江杭州女子監督)後編

オランダと日本で指導ライセンスを取得し、オランダのフィテッセアカデミーや東京23FCコーチ、浦和レッズ通訳、タイ2部ソンクラー・ユナイテッド監督を経て、2016年から中国女子2部浙江杭州女子のコーチ、翌年から監督を務める林雅人氏。インタビュー後編では、監督論や海外で指導をするための心構えなどを存分に話してもらった。(文・写真 池田宣雄)

【前編はこちら】

林雅人監督(以下、林)率いる浙江杭州女子チームは、今季は中国女子2部リーグの日程を消化しながら、4年に一度開催される全国運動会(中国版の国体)にも挑んでいる。

「5月に本大会出場を懸けた予選大会があり、全国から17チームが出場したのですが、結果は10位で残念ながら予選落ちしてしまいました。全国運動会は歴史と権威のある大会で、体育局は普段のリーグ戦よりこの大会の方を重要視しています。4年前の大会は13位だったので、体育局の方々は順位を上げたことを喜んでくれました。もう早くも、4年後のことを話し始めていますよ(笑)」

4年後のこと。チームと林は長期的な展望に基づいた契約を結んでいるのだろうか。

「いいえ。基本的に単年契約です。昨年はコーチとして1年契約をして、今年は監督として1年更新しました。来年以降の具体的なお話は、ここからも他からもないです。良い結果を出していないですしね」

林は、一昨年(2015年)のタイ2部ソンクラー・ユナイテッドでの指導から、家族を東京に残して単身赴任生活を続けている。

「上が5歳と下が2歳の男の子がいるので、奥さんは本当に大変だと思います。サッカーに集中させてくれている奥さんには感謝しているのですが、単身赴任は今年で最後にしたいと考えています。来年以降は家族と一緒に暮らせる場所で仕事したいですね」

 

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いささか気の早い質問をしてしまったのだが、来年以降の仕事場について、場所やカテゴリーなどの方向性や希望はあるのだろうか。

「場所は中国でもどこでも。カテゴリーは男子でも女子でも。でも、ひとつだけあってトップチームの監督をやりたいです。もちろん、良いお話しがなければできませんが、今、僕は監督論の領域に真剣に向き合っているので、できるだけ監督という立場にこだわりたいですね」

ところで、林はオランダ時代にUEFA公認A級(オランダサッカー協会公認1級)コーチライセンスを取得済みなのだが、帰国後にJFAのA級も取得している。日本のライセンスを取得したのはなぜだろう。

「敢えて取り直す必要はなかったのですが、日本ではどんな指導実践が行われているのかを知りたかったのと、日本でチームを探すときに、JFAのライセンスもあった方が良いかなと思ったからです。僕は日本では大学サッカーまでしか経験していないので、純粋にサッカーの知り合いを増やすという意味もありました」

若くしてオランダに渡り、フィテッセのユースアカデミーでの日々を経て、自身の戦術論を形にして監督の立場に上り詰めた林だが、今年は大きな壁にぶつかっているのだと言う。

「これまでは戦術の理論や練習の内容など、方法で良いチームを作ろうとしていましたが、監督になってみると、それはあまり重要ではないと感じるようになりました。特に最近はコンディションのことや、過ごしやすい環境づくりなど、選手のポテンシャルを最大限に引き出すことの方が、重要ではないかと思っています」

 

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既存の戦力や環境の中でベストを引き出すことが、林の言う監督論の領域にあるということなのだろうか。

「言語だけではないのですが、コミュニケーション能力をもっと伸ばしたいですね。これはモウリーニョさんが長けている能力ですよね。人心掌握術であったり、手まわしとか気配りとか。その一方では、プロフェッショナルとして割り切って、雇われたチームの文化や事情を重んじることも、プロのトップチームで監督を務める上で重要だと思います」

すごく言いたいことがありそうなので、さらに話を促してみた。

「中国に限らず世界中のチームに、諸々の事情というものが存在します。わかりやすい部分では、ローカルのコーチや選手などのチームに介在する『人』の事情です。これまでずっとローカル環境にいた人たちには、どうしても未経験であったり物足りないことがあります。でも、なんでチームにいるかと言うと、単純にチームに必要な人材だったからいるんです」

詳しい内容は伏せるが、いち日本人指導者がやりがちなNG行為について、林は警笛を鳴らしている。

「我々日本人指導者が加わるずっと前から、チームに長年貢献して結果を残してきたローカルの『人』に対して、指導理論の正論を振りかざして追い込むような行為はするべきではない。理想と現実は違うんです。それらの理想が叶わないと知るや職務を放棄する。これはプロフェッショナルではない。職責と割り切って、根気よく指導を続けるのがプロフェッショナルです」

カフェに入って早くも1時間が過ぎている。午後には広東女子とのリーグ戦(中国女子リーグは当日の天候や気温の状況を確認してから、キックオフ時間が確定する)があるので、いつまでも話し続けられない。

 

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林は今年の年末に40歳になる。これから迎える40代、50代における自身の描く未来像を聞いてみた。

「僕の夢は男女問わず、どこかの国の代表チームを率いて、一度で良いからオランダ代表と対戦して勝つことなんです。もしも自分で成し遂げることができなくても、指導者として僕の影響を受けて、その意志を受け継いでくれた誰かが、僕の代わりに遂げてくれることまでを描いています」

指導者として自分の影響を受けた誰か。これはどういうことだろう。

「僕は最終的には、AFCかJFAの指導者講習会の講師をやりたいんです。もちろん、講師になる前に監督として多くの経験を積んでからになります。僕が考えていることや経験してきたことを伝えたいんです。チームでは選手たちにしか伝えられない。でも、指導者が指導者に影響することに意味を感じるんです」

アウェー遠征中の、しかも試合当日の午前中にも関わらず、林は最後までしっかりと対応してくれた。

「今後、より多くの日本人指導者が海外に渡ると思います。僕のでも良ければ、指導の現場を見学してもらっても構いません。日本の指導者は、ほんの短期間でも海外の現場を見ておいた方が良いです。特に海外のダメな部分を見ておくこと。日本の基準がすべてではないということを知っておくべきです」

取材を終えてカフェを出た林は、降り出した雨を気にしながらホテルに急いだ。午後にキックオフの広東女子とのアウェー戦は、試合開始直後に連続失点を許すなどして1-4で敗北。浙江杭州女子はリーグの順位をひとつ下げる結果となった。

(了)

【プロフィール】
林雅人(はやし・まさと)。1977年生まれ。東京都出身。日本体育大学卒業。2000年からオランダに渡り本格的な指導者の道へ。2002年から2008年までフィテッセのユースアカデミーに在籍、各年代で監督やコーチを歴任。帰国後、東京23FCコーチ、浦和レッズトップチーム通訳。2015年にタイ2部ソンクラー・ユナイテッド監督。2016年から中国に渡り中国女子2部浙江杭州女子コーチ、2017年に監督昇格。UEFA公認A級およびJFA公認A級コーチ。浙江省杭州市在住。

【執筆者プロフィール】
池田宣雄(いけだ・のぶお)。1970年生まれ。神奈川県出身。桜美林大学文学部卒業。上海勤務を含む10年間の会社員生活の後、2002年に香港で起業。2012年から執筆活動を開始。香港紫荊會有限公司代表。香港サッカー協会アソシエイトメンバー。香港在住。

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