2017.07.13 Thu

Written by EDGE編集部

アジア

海を渡った指導者たち〜第11回・比嘉リカルド(深圳南岭鉄狼コーチ)後編

前1

ホテルのカフェでランチを頬張るリカルドが、中国での食事情を語り始める。「このホテルにいる限り、食事面は大丈夫です。でも遠征で他の街に行った時は本当にキツいです。私はコーチですからまだ良いけど、外国人の選手(ブラジル人とイラン人)には、中華料理だけという環境は耐えられない。全体の食事が終わった後に、食べられそうなレストランを一緒に探しに行くんですよ」(文・写真 池田宣雄)

【前編はこちら】

リカルドとチームの契約は3年目に突入した。丸2年に渡り指導を行ってきたチームに、どのような進歩があったのか。またリカルド自身にも、意識の変化はあったのだろうか。

「1年目は本当に長く感じました。中国人選手やスタッフとの対話が難しかったですね。私は感情むき出しの熱い指導をするので、厳しい口調の加減とか、フォローのタイミングとか、中国人選手のポイントをつかむまで時間が掛かりました。今は信頼関係ができたので大丈夫ですけど」

信用。信頼。リカルドの口から、このふたつのワードが度々発せられる。監督とコーチの関係、そしてコーチとスタッフや選手たちとの関係において、最も重要なのだと言う。

「日本にいた時は中国のイメージが悪かったですけど、日本人も中国人もみんな同じ選手であり人間ですね。要は信頼関係があるかないかですよ。FC琉球で一緒だった藤吉さん(=信次、現・東京ヴェルディコーチ。2003年に中国でプレーしていた)も『最初は距離があったけど、付き合ってみると良い人が多いことを知った』と言ってたのを思い出しました。それはすごく大事なことで、成長したと感じてます」

 

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信用や信頼関係の重要性については、もうひとつの側面も強調している。

「チームからは複数年の提示がありましたが、私から単年契約をお願いして更新してます。長い契約をもらって安定するのも悪いことじゃないです。でもそれは『今』でも『中国』でもないんです。今ここにいる理由は、バーチさんが監督として現場の全責任を背負いながら、多くのプレッシャーにどうやって立ち向かっているのかを、アシスタントコーチとして一緒に仕事をしながら、学べているからなんです」

リカルドは、アジウ氏やバーチ氏との信頼関係の継続に細心の注意を払っている。ブラジル人の指導者と膝をつきあわせて話し合える機会こそが、今は重要なのだと言う。

「ブラジル人の指導者は結構冷たいですよ。信用していない人の意見はまず聞かない。一緒にはいるけど意見交換なんて絶対しない。特に指導者として野心のあるアシスタントコーチとは。でもアジウさんもバーチさんも私を信用してくれました。時々ダメだと言われることもあるけど、意見を言うことは許されています」

 

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なぜリカルドの姿勢に、そこまでの意識が備わっているのだろうか。深く掘り下げて聞かせてほしいとお願いすると、こう切り返してくれた。

「私は神戸(デウソン神戸)と仙台(ヴォスクオーレ仙台)で監督をしていた時に、成績不振とかのプレッシャーを、自分でコントロールできなかったんです。いつも感情むき出しで熱くなってしまって。それもあって、実績と経験のあるブラジル人指導者の姿勢を学ぼうと思いました。中国に来た意味はこれなんです」

指導者としての自身の悪いところを克服する。そのために中国に来たと言うリカルド。とはいえ、中国では常勝を義務付けられているこのチームでは、目の前の結果も求められる。3年目の今季は、何をチームに上積みしていくのだろうか。

「中国では勝てているからなのか、選手たちもフロントも、意識がイマイチ低かったり、甘く考えているところがあります。少しでも相手に隙を見せるとやられることを、昨季の最後のプレーオフで味わったので、そこを強調して行きますよ。やるなら徹底的にやる。準備する。集中する。自分に甘えない。怪我を最小限に抑えるための努力をする。自分のためじゃなくて、チームの結果のために働く。この意識を植え付けます」

 

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プロの世界には、二種類の監督がいると聞いたことがある。ひとつはクビになった監督。もうひとつはこれからクビになる監督。現場の全責任を背負う監督は、明日にはもうその職務を解かれているかもしれない。取材を快諾してくれたバーチ監督も、間違いなくその対象となる。アシスタントコーチであるリカルドも、長く中国に留まるつもりはないと言う。

「正直に言うと、フットサルが盛んなアジアの国で指導するつもりはないです。もちろん、アジアのチームからオファーが来たら、行く勇気とやれる自信はありますよ。でもそれは私の目標じゃないです。私は日本に戻ってFリーグで監督をやりたい。その先に日本代表で監督をするという夢があるんですよ。日本で認められたいんです」

コーヒーカップを見つめながら、日本への熱い思いを語るリカルドは、日本のフットサル界における現状と未来について、指導者の目線でということで解説を加えてくれた。

「まず、お客さんにまた来てもらうために何が必要かと言うと『どこまで頑張っても、もっと頑張らなきゃいけない』のです。お客さんは感動しに応援に来てくれます。お客さんが戻ればメディアもスポンサーも来てくれます。そこではじめて現場の待遇面が改善されるはずです。日本の選手たちの中には、意識の高いアマチュア選手がいます。待遇が悪くても100%で戦える。とても立派なんだけど、今のままでは子どもたちの目標にはならないですね。私も日本に戻れたら、もっともっと頑張りますよ」

 

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深圳南岭鉄狼は、7月20日にホーチミンで開幕するAFCフットサルクラブ選手権に出場する。大会組み合わせ抽選の結果、シュライカー大阪(日本)とギジ・パサ(イラン)と同組となっている。リカルドはこの組み合わせについて、苦笑いを浮かべながらこう語る。

「この組み合わせはヤバいですよ(笑)。特に大阪には木暮(=賢一郎、現シュライカー大阪監督)がいるじゃないですか。彼と対戦できるのは本当に嬉しいです。しっかりと研究もしています。まずはグループリーグ突破を目指します。でもね、小暮はスゴいですよ。チームメイトでもあり、ライバルでもあり、彼の活躍は刺激になります。小暮はずっと、日本のフットサル界で壁を壊してきた人ですから」

最後に、7月20日のシュライカー大阪戦に向けてひと言お願いします。

「はい!もちろん勝ちに行きます!」

(了)

Faça o melhor que puder. Seja o melhor que puder.
O resultado será na proporção do seu esforço. Acredite no seu sonho!

– Ricardo Higa –

できる限りベストを尽くそう。できる限り最高のものにしよう。結果はあなたの努力に比例する。あなたの夢を信じて!

【プロフィール】
比嘉リカルド(ひが・りかるど)。1973年生まれ。サンパウロ州カンピーナス市出身。1991年から1995年まで、リオ・ブランコ・デ・アメリカーナなどブラジル国内でプレー。1997年に日本に渡り、アルビレックス新潟やFC琉球などでプレーの後にフットサル転向。2007年から名古屋オーシャンズ、2008年からデウソン神戸でプレーの後に現役引退。2009年からデウソン神戸監督。2012年からヴォスクオーレ仙台監督。2015年に中国に渡り、中国フットサルリーグの深圳南岭鉄狼コーチ。2003年に日本国籍取得。元フットサル、元ビーチサッカー日本代表。JFA公認サッカー、フットサルC級コーチ。広東省深圳市在住。

【執筆者プロフィール】
池田宣雄(いけだ・のぶお)。1970年生まれ。神奈川県出身。桜美林大学文学部卒業。上海勤務を含む10年間の会社員生活の後、2002年に香港で起業。40歳を過ぎてから執筆活動を開始。香港紫荊會有限公司代表。香港サッカー協会アソシエイトメンバー。香港在住。

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