2016.10.18 Tue

Written by EDGE編集部

アジア

海を渡った指導者たち〜第5回・千葉康博(SPORVA副代表)後編「グラスルーツから、スクール業界を変えたい」

商社マンを辞めて上海へ渡り、兄とともにゼロからサッカースクールを立ち上げ、軌道に乗せた千葉康博(SPORVA副代表)さん。インタビュー後編ではサッカースクールの経営や選手育成の方針、コーチの在り方について、話は核心に迫っていきます。(文・写真 池田宣雄)

(インタビュー前編はこちら)

千葉兄弟が2009年から運営していた「PAZ」は、その後、日本の大手スクールの中国進出の事案をまとめ上げ、上海に設立する現地法人に合流する形で、発展的な消滅の道を選択する。

社員として加入した千葉兄弟が運営する日系スクールは、その後、急拡大を続ける。スタート時に50人ほどだった生徒数も、2年後には10倍の500人の壁を突破し、尚も上海の市場を席巻していた。

事態が急展開を見せたのは2012年の晩秋。親会社の上場を巡る顛末を経て、現地法人のMBO(事業譲渡)の提案が、千葉兄弟になされたのだ。

話し合いを重ね、事業譲渡の骨子がまとまり、生徒数500人規模の日系スクールは、2013年の1月に、千葉兄弟が経営する「SPORVA」として生まれ変わることになる。

康博は当時の心境から語り始めた。

「代表(兄・将智)も言っていたと思いますが、自分たちで積み上げてきた500人を超える生徒と、既存の組織をそのまま継承できたのが、本当に大きかったと思います。SPORVAとして再スタートを切る前から、実質的には僕らが運営していましたので、特に現場では混乱することはなかったです」

会社の社員の立場から、本当の意味での経営者となったことで、千葉兄弟の役割分担にも少し変化があったようだ。

「代表は、現地法人の責任者の立場から、字の如く会社の代表となり、より経営に時間を費やす方向にシフトしました。僕は、子供たちへの直接指導に加えて、現場のコーチたちの教育と育成に、より注力していくことになりました。コーチたちには、それこそ本気で伝えていかなければならないことが、たくさんありましたから」

 

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康博はひと呼吸置き、ここからまさに荒れ地を整備するブルドーザーの如く、SPORVAの掲げる活動の指針と理念を、熱く語り始めた。

「まず大前提としてSPORVAの使命は、中国でスポーツの価値を、サッカーの価値を高めることにあります。僕らは、国や国籍には特にこだわりはありません。『どうして中国で?』と、よく質問されるのですが、サッカーというコンテンツと、中国の経済発展を考えると、ビジネスの観点で言えば結論がでてきます」

ずっとおどけていたはずの康博の眼光が、一瞬鋭くなる。

「ボーダレス社会の現代では、多様性に満ちたスポーツビジネスは、大きな可能性を秘めています。既成概念にとらわれず、スポーツを、サッカーを、より価値のあるコンテンツにしていこう、というのが僕らの思いです。その為に何をしていかなければならないかと言うと、SPORVAという会社組織が、スクールビジネスを成功させて、この上海の地で確立する必要があります。これは継続という意味です」

チャンジャとアボカドの和え物を、韓国海苔で巻きながら、話を続ける康博。

「継続するとはどういうことか。これは盤石の経営を長年に渡って実践していくという意味です。その為に今何が必要かと言うと、SPORVAが、極端な選手育成(方針)の犠牲にはならない、という覚悟が必要だと考えています。将来の中国代表選手を育てようとか、優秀な選手の育成に特化しようとか、周りの人たちは口にするのですが、そこに色気を出し始めると、子供たちを区別することになり、今、それをすると本質を見失います」

海苔巻きを頬張りながら、話を続ける康博。

「ただ、やるからには、子供たちを上手くすることも忘れてはなりません。バランス感覚が重要です。要は育成や勝負事に関しては、将来会社の基盤が整った時に、必然とピラミッド構造が完成しているはず、と考えているんです」

生徒ゼロの状況からの経験を積んできた康博は、あくまでも第一義は、顧客満足(生徒と保護者)にあると力説する。

「子供たちと保護者に、少しでも気持ち良く参加してもらうには、まずはメソッドよりも、コーチの人間性の方が重要だと考えています。そこに重きを置くなら、担当コーチ自らが、ビラ配りで生徒募集の姿勢を見せて、入会する(した)時点から、少しでも人間関係が築けている方が良いですよね」

 

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ここで康博の箸が一旦止まる。そしてSPORVAが必要とする、コーチの在り方について話し始めた。

「僕らは、コーチの採用基準を明確にしています。正直、サッカーの技量や知識も大切ですが、個人の持つ人間性の方を、敢えて重視しています。特に日本人のコーチには、中国語が話せる条件でスクールを担当させています。僕らはグラスルーツのコーチです。その国の子供たちと関わるのであれば、その国の言葉を話せて当然です。サッカーの技量や知識がどれだけあっても、それを伝える言葉が話せないのなら、意味がありません」

SPORVAの日本人コーチたちは、中国に語学留学していたり、他のスクールでの経験を積んでいたり、皆、中国語能力に秀でている。そして今年は、日本人コーチの採用に際して、新しい試みも実施したようだ。

「今年、日本の大学を卒業した新卒のコーチを採用しました。指導者ライセンスは持っていますが、中国語はまったく話せない状態でした。もちろん会社として、語学学習のサポートもしますが、最終的には本人の努力次第です。必死に中国語を勉強して、半年でスクールを持てるレベルになりましたが、今も継続して勉強しているようです」

では、中国人コーチたちに対してはどうなのだろうか。

「人間性を重視して採用した中国人コーチたちにも、日本人コーチたちと同様に多様性の発揮を求めています。時事問題や経済状況については、常にアンテナを張るように伝えています。サッカーのことしか話せないのは、社会人として問題があるので、社内ではサッカー以外の話が多いですね」

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クオリティを高めて、顧客満足に最大限応える。それが経営と現場に跳ね返ってくる

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