2016.07.14 Thu

Written by EDGE編集部

インタビュー&コラム

アマチュアフットボーラーの挑戦・渡邉俊介「日本一を目指す経営者が注ぐ、サッカーとオーガニックコットンへの情熱」

中村:マスターズって、参加するモチベーションは人それぞれで、チーム内にも温度差があるじゃないですか。渡邉さんはチームをまとめるために、何をされたのですか?

渡邉:とにかく、チームメイトに言い続けました。全国に出るためには、何をおいてもチームワークだと。それぞれが試合に出たいという気持ちであったり、起用に対する不満もあるかもしれないけど、チームとして戦って、チームとして勝つんだと言い続けました。そのきっかけになったのが、今年熊本で起きた震災です。僕は巻(誠一郎/ロアッソ熊本)くんとも親交があるので、被災した直後にボランティアをしに熊本に行ったんですね。そこで巻くん筆頭にロアッソの選手たちと一緒に被災地を回る中で、彼らも被災しているはずなのに、練習が終わったら被災地を回って、物資を配ったりしている。その姿を目の当たりにしたときに、僕らはなんて恵まれているんだと、改めて感じました。そこで東京に戻ってすぐに、三重のチームのLINEグループに「俺たちは本当に恵まれている。何不自由なく出来る生活、環境はとてもありがたい。チームへの不満や文句を言っている時点で間違えているんじゃないか。サッカーに打ち込める環境があるのだから、まずは真摯に取り組もう」とメッセージを送りました。

中村:そういうことがあったんですね。

渡邉:サッカーはチームスポーツなので、監督、スタッフ含めチーム全員が同じ目的意識を持って臨まないと、全国には行けないということを、色々な方法で言い続けましたね。

中村:チーム力が大事というのは、身にしみてわかります。私も石川県のチームで全国大会出場をめざすにあたり、それを実感しましたね。チームとして一体になっていないと、試合で劣勢になったり、受け身に回った瞬間にすごく脆いんですよね。ただ、渡邉さんも私も、その土地に住んでいるわけではないじゃないですか。お互いに東京に住んでいながら、三重や金沢に行って、練習をしたり試合に出ています。そこに負い目であったり、引け目はありますよね。

渡邉:それは、間違いなくありますね。

中村:引け目があるにも関わらず、チームメイトにとって耳が痛いことを言うのは、チームのためになるから、仲間のためになるからという思いがあるからこそなんですよね。言われた瞬間はわかってもらえないかもしれないけど、もしかしたら10年後に「渡邉さんがあのとき言っていたのは、こういうことなんだ」と気がつくかもしれません。サッカーもビジネスも一緒で、チームメイトや社員をいかにその気にさせるかが大切ですよね。

渡邉:本当にそう思います。僕は会社の社長として社員をマネジメントする立場ですが、こちらが指示を出してその通りにやらせるのは簡単です。でもそれをしてしまうと、社員が『指示待ち人間』になってしまって、成長しないんですよね。だから口を出したい場面でもあえて引いて、見守るようにしています。かなりストレスですが(笑)。いま僕が偉そうに意見を言えるのは、自分に色々教えてくれた大人たちが、僕が若いころに自由にやらせてくれたからなんですよね。22歳のときに繊維業界のこともわからずに起業して、糸のことから覚えなければいけない環境に置かれた中で、自由にやらせてもらった。振り返ると、そのときの経験がいまの自分につながっているんですよね。

中村:この対談の前に、中目黒のお店(VIRI-DARI nakameguro)に寄らせてもらいましたけど、オーガニックコットンを使った商品を扱っているんですね。

 

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渡邉:そうなんです。僕は繊維関係の会社をいくつか経営していて、その中のひとつの会社でオーガニックコットンを使って洋服を作ったり、アーティストのコンサートグッズを作ったりしています。

中村:なぜオーガニックコットンなのですか?

渡邉:そこにたどり着くまでには紆余曲折ありまして…。ドイツから帰国後、地元の三重に戻って四日市大学のコーチをしていたことは、お話ししましたよね。

中村:はい。

渡邉:当然、コーチだけでは生活ができないので、アルバイトをしながら、空いた時間に父親の繊維会社の物流を手伝っていました。そこで自分に何ができるかを考えたときに、ものづくりの中心は東京だと。東京に行って仕事をとってきて、親父の会社に発注すれば売上ができます。その売上のパーセンテージをもらうという事業プランを持って父親に相談しに行ったところ、銀行が300万円融資してくれることになり、2000年の6月に会社を作ったんです。

 

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中村:お父さんの会社から、派生する形で起業したんですね。

渡邉:はい。僕は人と接することが好きだったのもあって、わりと事業はうまく回り始めました。親父の会社は繊維業だったので、和歌山や兵庫など繊維業が盛んな地域の工場を回って、たくさんのことを学ばせてもらいました。勉強をしていくと、半年前にはわからなかったことが理解できるようになり、それを元に新たな商品を提案できる自分になっていることに気がついたんです。これは言葉と同じだぞと。高校卒業後にドイツに行ったときも、最初は周りの人が何を言っているのかがわからなかったのですが、半年後に聞き取れるようになり、1年後には喋れている自分がいる。喋っている自分に気がついて、驚くという(笑)

中村:仕事が順調に行きだして、良かったですね。サッカーとは全然違うステージでも、ちゃんと活躍できているのはすごいことだと思います。

渡邉:そうなんですが、仕事がうまく行きだした結果、俺ってイケてるじゃんと勘違いしちゃった時期があってですね。あるとき、ふと自分の格好を見たら、イブ・サンローランのコートを来て、ルイ・ヴィトンのバッグを持っているという典型的なやつで(笑)。ちょっと待て、これはまずいんじゃないか。自分の生き方や仕事をもう一度見つめなおそうと思ったんです。自分が仕事をすることで、誰が喜んでくれているんだろうと考えた時に、自分たちがやっているものづくりは、社会の仕組みの中で、自分たちがかけているコストと比べて、高い値段で世の中に出ていたんですね。

中村:間に問屋さんや代理店などが入ることによって、材料費以外のものが価格に乗ってしまいますからね。そこに違和感をおぼえたと。

渡邉:はい。自分たちでものを作ることができるんだから、自分たちで販売をしようと考えていたときに、自分が良いと思って使っていたコットンが、環境破壊や栽培者の健康被害につながっていることを知りました。具体的に言うと、かなりの量の農薬を使って栽培されていたんです。それで調べていくうちにオーガニックコットンに出会い、生産者に健康被害がなく、適正価格で取引されていることを知りました。

中村:いわゆる、フェアトレードというものですね。

渡邉:はい。どうせものを作るのであれば、環境にも人間にも配慮したものを作りたい。僕には繊維業界の仲間がいるので、中間業者の手を経由することなく、直接糸を買い付けて、ニッターさん(編む人)に発注すれば、生産者にも適正料金を支払うことができますし、適正価格で販売することができます。そう思って2009年に『VIRI-DARI deserta』というブランドを作って、中目黒にショップをオープンしました。『VIRI-DARI deserta』は古典ラテン語で『緑になる砂漠』と言う意味があります。

 

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中村:売上面はいかがですか?

渡邉:『VIRI-DARI deserta』は僕の事業の中の売上の10%にも満たないですし、利益だけを考えたら、やらないという選択肢もあります。でも、生産者や環境に配慮したものづくりをするという姿勢は、次の時代の繊維業界につなげていかなくてはいけないと思っています。その意識を継承することだけを考えても、やり続ける意味はあると思っています。

中村:すばらしい姿勢だと思います。最後に、サッカーの話に戻って終わろうと思いますが、いまの目標をお聞かせください。

渡邉:9月に秋田で行われる、マスターズの全国大会で優勝することです。やっぱり僕は、日本一になりたいです。来年、40歳になるのでOver 35カテゴリーで出場するのはラストチャンスですから。

中村:来年からは、シニア(Over 40)の世界へ踏み入れることになりますけどね(笑)。私もそうですけど、当たり前ですがサッカーばかりやっているわけにはいかなくて、仕事もきちんとしなければいけません。年齢的にも責任が生じてきますし、これだけサッカーに真剣に打ち込めるのも、会社の人の理解であったり、家族の支えがあるからこそですよね。

渡邉:本当にそう思います。毎週のように三重と東京を行き来する生活をするのは、周りに応援してくれる人がいるからです。僕は、仕事もサッカーも同じぐらい真剣にやる。そう思って取り組んでいます。いまのところ、仕事関係の人から「サッカーばっかりやって」という声が出ていないので、ちゃんと両立できているんだと思います(笑)。応援してくれる人がいるので、これからもがんばりたいですね。

中村:お互い、がんばりましょう。ありがとうございました。

渡邉:ありがとうございました。

 

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<プロフィール>
渡邉俊介(わたなべ・しゅんすけ)
三重県出身。暁高校を卒業後、単身ドイツに渡る。プロを目指して20歳の時に帰国し、Jクラブのテストを受けるが合格せず、トップレベルでのプレーを断念。四日市大学サッカー部のコーチを経て、繊維を扱う会社を起業。オーガニックコットンのブランド『VIRI-DARI deserta』(http://viri-dari.jp)を始め、複数の会社の代表を務める。過去4大会、三重県選抜としてOver35カテゴリーの地域決勝大会に出場し、2度の全国大会出場、1度の全国準優勝の成績を残した。

中村篤次郎(なかむら・あつお)
1970年生まれ。メットライフ生命保険㈱・シニアエキスパートコンサルタント。不動産営業を経て、ツエーゲン金沢の立ち上げに携わり、初代GMに就任。その後、FC東京の営業部を経て現職に。会社員のかたわら、毎週末サッカーをプレーするアマチュアフットボーラー。ポジションは主にサイドバックを担当。この連載のホストを務める。

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