2016.07.11 Mon

Written by EDGE編集部

インタビュー&コラム

金子達仁が語るサッカーメディアの現在と「キングギア」の野望

スポーツライターの金子達仁氏が、新しいメディアを立ち上げるらしい――。そんな噂が流れたのが、2016年の春だった。果たして、新メディアはどのような切り口なのか。そしてサッカーを始めとする多数の著作を世に出し、スポーツライティングの世界に大きな変革をもたらした金子氏は、2016年のサッカーメディアをどう見ているのか。メディアの現在から、自身が新たに作った「キングギア」の可能性まで、存分に語ってもらった。(聞き手・構成/鈴木智之 フットボールエッジ編集長)

◆もし、いま金子達仁が駆け出しのライターだったら、サッカーは書かない

――今回はサッカーメディアについて、話を聞かせてもらえればと思っています。紙媒体が次々に休刊し、サッカー書籍の刊行点数自体も減ってきている印象を受けます。サッカーに限らずですが、紙媒体メディアの苦戦が続く現状をどう見ていますか。

金子:大前提として、俺がフリーランスになった1995年に比べると、いまのサッカーメディア業界はパラダイスじゃない? だって95年当時、Webメディアはゼロだった。雑誌も主だったものはサッカーマガジン、サッカーダイジェスト、ストライカー、ワールドサッカーグラフィックしかなかったんだから。サッカーを書いて食べていくためには、雑誌の編集部に入るしかなかった。俺自身、サッカーダイジェストを出版している日本スポーツ出版企画出版社という会社で、メディアの人間としてスタートした。で、95年にサッカーダイジェストを辞めて、スペインに行こうと思って、周りの人に話をした。そのとき、なんて言われたと思う?

――「がんばってこいよ」ですか?

金子:違う。「アイツは馬鹿だ」って言われたんだから。スペインに行ってどうするんだ。仕事になんかなるわけないって。大馬鹿もの扱いする人ばかりだった。

――現代とは隔世の感がありますね。サッカーの世界に限れば、出版社を辞めて海外に行き、フリーのライターとして活動している人もたくさんいます。

金子:でも、20年前にそんなことをしていた人はゼロに等しかった。前例がないから「アイツは馬鹿だ」って散々言われた。もうひとつ同じようなことがあって、1997年に「28年目のハーフタイム」というノンフィクションを出版したんだけど、そのときに周りから言われたのが「本なんか出したら、ライターとして使ってもらえなくなるぞ。あいつは馬鹿だ」って。

――当時はサッカーのライターが本を書くのは一般的ではなく、作家として扱われることで、いわゆる雑誌ライター的な仕事がなくなると思われていたんですね。

金子:そうだと思う。でも、いま本屋に行ってみてよ。サッカーの本が山のように並んでいるわけじゃない。たしかに雑誌に勢いはなくなってきたけど、いまはWebメディアもあれば、書籍もある。俺が95年にフリーランスになった頃と比べると、表現の場は格段に増えているよね。

――僕がライターを始めたのが2001年で、金子さんの「28年目のハーフタイム」がベストセラーになり、サッカーを読むという行為が広まっていった時期でした。その頃から比べるとメディア自体に活気がないと感じるのですが、1995年を知る金子さんから見れば、いまはパラダイスだと。

金子:そう。

――物事をどこから捉えるかによって、見えるものが違うんですね。もし、2016年の金子達仁が駆け出しのライターだとしたら、何から始めますか?

金子:確実に言えるのは、サッカーは書かないということ。バスケやゴルフを書く。

――なぜですか?

金子:サッカーには、ライバルが多いから。1995年の金子達仁がなぜ野球やボクシングに行かなかったのか。野球には山際淳司さんが書いた「江夏の21球」があり、ボクシングには沢木耕太郎さんの「一瞬の夏」があったから。

――両方とも、スポーツノンフィクションの金字塔ですね。

金子:でも1995年当時、サッカーにはこれという作品がなかった。自分はサッカーが大好きで、しかもサッカーには誰も手をつけていない。これはおいしいと思って、ハクをつけるためにスペインに渡ったわけ。当時、ヨハン・クライフがFCバルセロナにいた頃で、彼のサッカーが大好きだったから。変な話、自分の才能に自信があれば、王道に行くのもありだと思う。でも、俺の文章力は大したことないから、着眼点で勝負するしかなかった。それが当時、メジャーではなかったサッカーだった。

 

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金子氏が「今まで書いた本の中で、一番手応えがある」と語る作品。ノンフィクションであり、ミステリでもある傑作。

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◆スポーツのギアに特化したメディア「キングギア」

――2016年、スポーツライティングのジャンルでサッカーは王道になりました。マイナーを選ぶ金子さんは、これから何を書こうとしているのですか?

金子:いま取り組んでいるのは、スポーツのギアに特化したメディアを作ること。サッカーであればスパイク、野球はバッドやグローブ、テニスはラケットやボール、ゴルフはクラブやシューズ…。サッカーも野球も競技人口は多い。ギアを使っている人はたくさんいる。でも、ギアの情報やストーリーに焦点を当てたものはなかった。だからやろうと。それがキングギア。例えば、日本におけるサッカーと野球を足した人気とゴルフの人気ってどれぐらいだと思う? 

――8:2でサッカーや野球の方が、ゴルフよりも人気があるんじゃないですか。

金子:では、週末の地上波で野球とサッカーを足した番組数と、ゴルフの番組数を比べたら? 8:2で野球やサッカーの方が多いかというと、そんなことはないよね。圧倒的にゴルフ番組が多い。プロ野球もJリーグも、いまや地上波の放送はほとんどない。でもゴルフは、毎週のように大会が中継されている。それはなぜかというのが、キングギアを作ろうと思った発想の原点。

――なぜ、地上波の露出がそれだけ違うのですか?

金子:ゴルフの番組には、ブリヂストンやダンロップというギアを扱っているメーカーがスポンサードしているから。でも、サッカーや野球の中継にナイキやアディダスがお金を出すかというと、出さないよね。なぜかと言うと、スポンサードしても旨味がないから。でも、ゴルフは長い時間テレビに映るのよ。この選手はどのボールを使って、どのクラブを使っているというのが。だからスポンサーがつく。もうひとつ例を挙げると、フォーミュラニッポンって知ってる?

――車のレースですよね。

金子:そう。フォーミュラニッポンとJリーグの人気を比べたら、100:1ぐらいの差でJリーグの方が人気があると思う。でも、J SPORTSでの放送時間を比べたら、いい勝負だぜ。なぜならば、ホンダやトヨタがスポンサーについて、番組を放送しているから。サッカーは人気があるのに、サッカー界に流れてくるお金が、人気と比例していないんだよ。それは、車業界の仕事をしているとよくわかる。自分自身、カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員をやらせていただいた時に、自動車業界ではペーペーのライターなのにもかかわらず、世界チャンピオンのジェイソン・バトンや佐藤琢磨君に好きなだけインタビューをさせてもらえた。飛行機での移動も全部、ファーストクラスやビジネスクラス。なぜか? ホンダやトヨタがスポンサーとしてくれているから。F1やインディも大きなイベントだけど、サッカーのワールドカップはそれよりはるかに大きいよね。Jリーグって、そんなにちっぽけですかと言う話。自動車ライターであれば、世界中ビジネスクラスで行けるのに、サッカーだとエコノミークラスで、しかも自腹でいかなければいけない。そこに疑問を感じたわけ。出た結論が、『お金を持っている人たちが、サッカーの世界にお金を出したくなるシステムがないんだな』ということ。だから、キングギアでその流れを作りたいんだ。

 

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キングカズや香川真司、遠藤保仁、五郎丸歩、Dragon Ash など、ビッグネームのインタビューがずらりと並ぶ。金子氏もコラムを執筆。

 

◆選手とメーカーの新しい契約の形を作りたい

――キングギアを始めて2ヶ月が経ちますが、手応えはいかがですか?

金子:激しく手応えを感じている。まだ始まったばかりのメディアなのにメーカーの反応はすごいし、小売の大手がキングギアと組みたいと言ってくれているから。

――小売と組んで、どんなことをしようと考えているのですか?

金子:いまやろうとしているのが、選手にメーカーの枠を越えてスパイクを履いてもらうこと。いまのスポーツ界って、メーカーと選手が契約をして、契約メーカーのスパイクを履くのが一般的だよね。メッシはアディダスと、クリスチアーノ・ロナウドはナイキと契約しているから、そのスパイクを履く。まずはそれを壊したい。契約うんぬんではなく、本当に良いスパイク、クオリティの高いスパイクは何なのか。それを決めたい。たとえば若いJリーガーはメーカーから物品提供してもらって、そのメーカーのスパイクを履いているんだけど、ぶっちゃけると契約金をもらっている選手は一部の有名選手だけで、ワールドカップに出たことのある某選手の、いまの契約金はたったの◯◯万円。

――驚くほど少ないですね。

金子:でしょう? だったら選手はキングギアと契約して、履きたいスパイクを履きたいときに、好きなように履いてもらう。キングギアには小売がついているので、スパイクを用意するのは難しいことではないし「メーカーから物品提供してもらっているから」という理由ではなく「このスパイクが履きたい」「このスパイクの品質が良い」という理由で、試合で履くことができる。で、そういう選手が増えていけば「Jリーガーが本当に良いと思っているスパイクはこれだ」というのがわかるし、間違いなく話題になるよね。あるJ1クラブの社長にこの話をしたら。「おもしろいから存分にやってくれ」と。クラブや選手に今までとは違う形でお金が入るかもしれないので、ウェルカムなわけ。

――選手側とすれば、メーカーと契約してないのでスパイクの良し悪しをダイレクトに言うことができますし、話題になればお金もついてきますね。

金子:そう。選手たちを休みの日に集めて、何のスパイクがいいかというイベントもやれる。当然、そこにはなんらかの金銭的なメリットも発生するので、将来的にはキングギアと契約している選手にインセンティブも出せると思う。メーカー側からすると、良いスパイクを誠実に作っていれば、選手たちは間違いなく評価する。お互いにとって、悪い話ではないでしょう? 

 

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キングギア発起人の金子達仁氏

 

――メーカーにとって、気になるメディアになると思いますが、反響はいかがですか。

金子:キングギアで「SPIKE WARS」という企画があるんだけど、ヴェルディの永井秀樹君に全メーカーのスパイクを履いてもらって、忌憚のない意見を聞いたわけ。記事の中でアンダーアーマーのスパイクを褒めたら、すぐにアンダーアーマーのスタッフが、ヴェルディのクラブハウスに全選手分のスパイクを持ってきたり。本田(圭佑)君が履いているウエーブイグニタスを酷評したら、ミズノの担当者が「今度はこれを履いてください」と持ってきたり。

――メーカーも無視できなくなりつつあると。今後のキングギアの構想については?

金子:カー・オブ・ザ・イヤーならぬ「ギア・オブ・ザ・イヤー」を年末に発表したい。あとはサッカー以外の競技、とくに力を入れたいのはランニングシューズ。だからいま、藤原新君にも協力してもらっている。サッカー以外のギアも扱うつもりなので、これを読んでピンと来た人がいれば、なんらかの手段でキングギアにアプローチしてきてほしい。

――話を聞いた限りだと、キングギアは新しいメディアの形になりえるかもしれません。メディアであり、代理店でもあるという。とくに選手との契約の話は、いままで見たことも、聞いたこともない発想です。

金子:1995年に俺がスペインに行った時、周りはみんな、見たことも聞いたこともないから、あいつは馬鹿だ、わかってないって散々言った。ただあの時と違うのは、キングギアの話をしたときに「あいつ馬鹿じゃないか」という反応ではなく、おもしろい、何か一緒にやりましょうと言ってくれる人たちがいること。95年当時、スペインに渡って、「来年の俺はどうなるんだろう」と思いながら、言葉もできずにドラクエとファイナルファンタジーばかりやっていた頃と比べると、希望に満ちているよ。どうすればいいか、道は見えているからね。(了)

 

プロ選手が愛用するサッカースパイクを語る | King Gear [キングギア]
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