2016.07.07 Thu

Written by EDGE編集部

アジア

海を渡った指導者たち〜第2回・斎藤隆士(広東女子足球隊GKコーチ)「中国で感じた、育成年代の指導の重要性」

中国で指導者として活動する亘崇詞さんに口説かれ、初対面で中国行きを決意した斎藤隆士さん。中国に渡って一年を過ごして感じた、ピッチ内外の状況を赤裸々に語ってくれています。中国女子リーグ・広東女子足球隊でGKコーチを務める、斎藤GKコーチのインタビュー後編をお届けします。(文・写真 池田宣雄)

【インタビュー前編はこちら】

「去年の5月に指導を始めた時に感じたのが、20代前半の中国人GKの身体能力の高さです。身長は皆180cm以上あって、手足も長いです。シュートへの反応も速いので、純粋に驚きました。ただ、GKとしての基礎技術のレベルが低いんです。キャッチに限らず、起き上がる動作やジャンプの正確性なども理論が伴わず、身体能力だけに頼っています。試合でも、次のプレーの予測ができないので、偶然のプレーや予測不可能なプレーが多いです。それと、DFとの連携でボールを奪う事や、シュートを打たせないためのコーチングや戦術が、まったく理解されていません。GKに必要なのは技術ではなく、打たれたシュートを止める事、ただ大きく弾く事くらいしか求められてこなかったんだと思います」

GKにとって、もっとも重要な基礎を指導するにあたって、斎藤はどのように練習を始めたのだろうか。

「中国に来た当初は、通訳なしのスタートでした。言葉では何ひとつ伝えられずに練習させるしかなかったので、本当に必死でした。ただし、GK練習は基礎の反復と応用が多いので、自分自身でやって見せる事である程度はなんとかなりました。いま思い出すと、自分でも良くやっていたなと思います。次第に、最低限の言葉を加えてデモンストレーションをしたいので、簡単な中国語の単語を覚えるようにしました。理論を話すまでには程遠い状況ですが、通訳頼みも効率が悪いですし。ここでは、サッカーの英単語は全然通用しないですよ(笑)」

 

saito.3

 

女子チームでの指導は、斎藤にとっても初めての経験だという。GKはフィールドプレイヤーよりも大柄な選手たちとはいえ、やはりそこは女子。戦術指導の一部に男女間の決定的な違いがあるという。

「男子と女子の違いは、スピードと距離だと思います。GKはフィードするキックもロングスローも、これは基礎技術がない事にも関係しているのですが、女子だと全然足りません。それは試合を観ていて感じる事です。男子なら、正確なロングスローからカウンターに転じる場面がありますが、女子では、ボールのスピードもないし距離が出ないので、戦術としては使えません。そこにジレンマを感じます。だからこそ、フィードの判断、ロングスローの技術やキックの精度などを身につけさせて、中国で一番技術のあるGKになって自信をつけさせてあげたいんです。でも、彼女たちには日々の努力が欠けているのも事実でして、毎日葛藤しています」

確かに、数試合を観戦したが、一度もGKからの素早いカウンター攻撃を見ていない。これは対戦相手も同様で、GKから即座に攻撃に移る戦術は、女子では難しいのかもしれない。

斎藤は現在2年目のリーグ戦を戦っている。基地でのチーム練習以外に中国各地への遠征もあり、試合も然る事ながら、各地で多くのGK練習を見る機会があるという。中国で行なわれているGK練習の状況について、斎藤は持論を述べる。

「中国では男子も女子も、GKについては外国人選手がプレーできません。チームにたったひとつのポジションですし、他のポジションとの相関性もなく、試合途中での交代も、アクシデント以外はしない特殊な立場だという事で、規則によりGKは皆中国人だけなんです。GKコーチは外国人でも大丈夫なのですが、それほど数がいるわけでもなく、有名な指導者も来ていないと思います。そのため外部からの刺激に乏しく、近代戦術への取り組みが遅れているのではないかと思います。本当のトップの方は違うと思いますけど、地方の下部チームのGKコーチは、自分が現役の頃の練習をそのままやっているんだと思います。GKは、打たれたシュートを止めるのが役目、それを大きく弾くのが仕事なんだと。実際、いろんなカテゴリーのGK練習を覗いてきましたけど、この前見たのは、中学生くらいの女の子に2時間ぶっ続けで弾く練習をさせていました。あれでは身体が壊れてしまうし、ボール恐怖症になったり、セービングに変な癖がついてしまいます。もっと大切な事が山ほどあるのにと思いました。中国、もったいないですよ」

 

saito.2

 

斎藤が言わんとしている事は充分に理解しているが、敢えて中国のGK指導についての提言を求めてみた。斎藤は明確にこう言った。

「GKというポジションは、基礎が本当に大切なんです。育成年代で基礎の指導を受けてこなかった選手が、トップチームで基礎から始めても遅いです。アジアの中では比較的身体能力に優れる中国で、育成年代から計画的に基礎を学ばせて、戦術まで理解させれば、絶対に世界で通用するようになると思います。中国のすべてを知っている訳ではありませんが、私が見た限り、指導の計画性はまるで感じません。そこには疑問しかないです。選手たちの成長には、指導者自身の経験と成長が不可欠ですから」

斎藤が昨年指導したGKが、中国女子代表候補に名を連ねている。今年は中国サッカー協会による導きもあり、1部を戦う北京のチームにレンタル移籍中だ。強豪チームに移籍した事で、試合への出場機会が減少しているそうだが、時々連絡が来てアドバイスをしているという。

「チーム内のライバルと切磋琢磨してポジションを争う事は、彼女自身の成長につながります。リオ五輪のメンバーに残るためには、試合に出場してアピールする必要がありますが、選手たちは与えられた場所で最善を尽くすしかありません。控えGKが正GKを突き上げることで、GK全体のレベルが上がり、結果としてチームの勝利に貢献することになります。いずれは、それが自分の成長につながることを理解してほしいと思っています。私自身、日本で何人もの控えGKを指導してきましたけど、控えGKの意欲の向上はチームにとって重要なんです。これは国や場所に関係のない事なので、控えの選手たちには常に伝えています」

<次ページ>

海外で指導をすることで感じた、プロ指導者としての魅力

 

1 2

◀︎前の記事 トップ ▶︎次の記事