2016.07.01 Fri

Written by EDGE編集部

アジア

海を渡った指導者たち〜第2回・斎藤隆士(広東女子足球隊GKコーチ)「中国行きを快諾。背後にあった妻の後押し」

日本人選手の海外移籍から遅れること十数年、アジアを中心に指導者の海外移籍が始まりました。いまはまだ一部の指導者だけですが、「日本人指導者」のニーズはアジアを中心に拡大しており、今後、多くの人が海を渡ることが予想されます。それに先立ち、フットボールエッジでは海外でプロコーチをする人にスポットを当て、異国でサッカーコーチをすること、生活することについて、掘り下げることにしました。今回取り上げるのは、中国女子リーグ・広東女子足球隊でGKコーチを務める斎藤隆士さんです。(文・写真 池田宣雄)

2015年4月下旬、斎藤隆士(以下、斎藤)は、広東女子足球隊を率いる亘崇詞(以下、亘)と東京で面会していた。所属していた会社を既に離れ、次の指導の場所を検討していた斎藤は、初めて会う事になった亘から、中国の女子サッカーチームの話を聞いていた。斎藤は亘との出会いの場面から回想する。

「会社から出向していた多摩大目黒中学・高校サッカー部での指導から離れて、当時は有給休暇中の身でした。それまでずっと忙しくて休みのない生活を送っていまして、入籍だけ済ませていた嫁さんとの結婚式と新婚旅行の計画を練りつつ、次の指導の場所を検討していました。幸いな事に指導のオファーは数カ所から頂いていましたので、じっくりと吟味していたというのが正直なところです」

亘との面会は、友人の知り合いからの連絡で急遽決まったという。都合が良ければ今晩にでも、という状況だった。

「知り合いから、ぜひお会いしたいという方がいると聞きまして、二子玉川のカフェで亘さんに初めてお会いしました。今となっては大変失礼なお話ですが、私は女子サッカーの指導経験がなかった事もあって、亘さんの事はまったく存じ上げていませんでした。お会いした後に慌てて経歴とか確認しました(笑)」

東京に飛んで帰ってきた、当時の亘の状況も充分に窺い知れるところだが、次の指導の場所をじっくりと吟味していた斎藤に、初対面の亘の姿はどのように映ったのだろうか。

「海外でのサッカー指導のお話を聞かせて頂きまして、お話の最後に、亘さんがおられる中国の女子サッカーチームからのオファーがあると。『もし、少しでも興味があれば連絡してほしい』と言われて、面会は終わりました。本当に短い面会時間でしたが、私は亘さんの魅力に引き込まれていたんでしょうね。帰宅の電車の中で自然と『詳しい話をお聞きしたい』と亘さんにメールしていました。今までの自分にはまったくなかった興味と、無限の可能性を示して頂きましたから。それから2日後に亘さんとランチをしながら、中国チームの状況について写真を見ながら説明を受け、自分から『ぜひチャレンジさせて頂きたい、頑張りたい』と、お話を受ける事にしました」

斎藤は亘と2回だけ会い、自身の滞在査証の手続きや契約条件などの詳細も詰めない状態で、決断から僅か2週間後に広州の空港に降り立ったのだという。

 

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それでは、新婚の奥さんとの結婚式や、新婚旅行の話はどうなったのだろうか。そもそも、奥さんを帯同する事になったのだろうか。いやその前に、奥さんは斎藤の中国行きにどのような反応をみせたのだろうか。

「亘さんと二子玉川のカフェでお会いした日の晩に『なんか、中国の女子チームでの指導のお話みたいだよ』と切り出したら、嫁さんに出会ってから今まで一度も見た事のない表情で驚かれてしまいました。でも『海外での仕事の誘いは限られた人、タイミングしかないのだから、もう一度お話を詳しく聞いた方が良いと思う』と嫁さんが言ってくれたんです。その後、亘さんと二度目にお会いする時には、もう自分の気持ちはほぼ固まっていたので、はっきりと中国行きの意思を伝えられました。結婚式は先送りに、ただ、新婚旅行についてはお話を頂く前から日程が決まっていたので、亘さんには『新婚旅行だけは行かせて下さい』とお伝えして中国行きを遅らせて頂いていたのですが、前日からグアムに大型台風が接近して、当日に直撃となり、飛行機がキャンセルになって行けなくなってしまいまして。嫁さんには申し訳ない気持ちでいっぱいなんですけど、それでも嫁さんは私を中国に快く送り出してくれました」

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中国に渡った当初は素晴らしい施設だと思っていたが…

 

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