2016.06.23 Thu

Written by EDGE編集部

育成・トレーニング

【少年サッカー移籍問題4】移籍トラブルに遭ったときの対処法と、ドイツの選手証から読み解く改善例

少年サッカー移籍問題について取材を進めています。第1回目の記事で紹介した、Z県某クラブの「移籍承諾書」について、当該の都道府県少年サッカー連盟の関係者に話を聞くことができました。今回の事例と同じ文言、文面ではないとは思いますが、似たようなケースは全国で起きていることが想定されます。子どものクラブ間移籍について悩んでいる保護者の方は、ぜひ参考にしてください。(取材・文 鈴木智之/フットボールエッジ編集長)

少年サッカー移籍問題 第1回の記事はこちら

少年サッカー移籍問題 第2回の記事はこちら

少年サッカー移籍問題 第3回の記事はこちら

 

某クラブが独自に制作し、移籍を希望した選手の保護者に配布した「移籍承諾書」の文面は次のようなものでした。

・退部した場合、一年間他のサッカークラブに所属できない
・選手登録をした選手は、一年間同一チームで活動する
・原則として他チームへの移動は認めない。但し、転居等やむを得ない事情によっては考慮される
・各選手がチーム間で移動をする時は「移籍承諾書」を作成、両チーム代表者の同意を得ることにする

結論から言うと、この「移籍承諾書」について、効力は一切ありません。当該の都道府県少年サッカー連盟に所属する関係者に問い合わせたところ「移籍の説明は下記(編注:「移籍について」を参照)の通りで、これ以上でも以下でもありません。そもそも、クラブ側が選手の移籍を拒否する権利は認められていません」と語り「クラブと保護者との間で、移籍について問題があった場合は、まずは所属の連盟、ブロックに連絡をしてください。そこで収まらない場合に、ブロック委員長が少年サッカー連盟、都道府県協会に連絡をし、裁定をという手順になると思います。所属の連盟が決めたローカルルールについて申し立てる場合は、当該連盟では受けつけて貰えない場合があると思いますので、その際は上部団体(当該県の少年サッカー連盟)に連絡をしてください」とのことでした。

ここでは、Z県の少年サッカー連盟の、移籍について定められたガイドラインを入手したので紹介したいと思います。

まずは、移籍とは何かを改めて認識するところから始めます。

――――――――――――――――――

移籍について

<定義>
移籍とは、登録年度途中に現在所属しているチームを脱退し、別のチームに所属変更すること。少年サッカー連盟では、4月の年度の切りかえで、別のチームに所属変更する場合は、移籍とみなしません。

<手続き>
選手が移籍を希望する場合、以下の手続きを行う。

(1)当該選手の移籍元チームは、自チームのWeb登録(編注・JFAのKICK OFF)より登録抹消手続きを行い、本協会の承認を得る。
(2)移籍先チームは、追加登録を行うと同時に、登録費を本協会へ振り込む。
(3)移籍元チーム、移籍先チームは、各々のブロック委員長に連絡する。

さらに、下記のような注釈があります。

○本規定の定めにより移籍元チームが「移籍承諾」を行わない場合は、本連盟の規律委員会が、移籍を希望する選手の申請に基づき、移籍元チームと移籍先チームとの話し合いの場を設ける。

<公式試合への出場資格>
少年サッカー連盟では、移籍元チーム、移籍先チームで選手の登録を承認したことがWeb上で確認でき次第、移籍先チームでの大会参加などの活動ができるようにします。※ただし、選手が移籍元チームで大会に参加した場合、移籍先のチームで同じ大会に参加する事はできません。

――――――――――――――――――

以上、公式の書面からもわかるとおり、クラブ側が選手の移籍を認めない、オリジナルのルールで移籍を妨げるというのは、当該の連盟も認めてはいません。移籍に悩む保護者の方は、移籍トラブルが起きた場合は、お住いの地域の少年サッカー連盟に問い合わせるのが、もっとも確実な方法だと思います。

 

◆移籍トラブルが起きる、2つの理由

では、なぜ今回のようなケースが起こり、各地で移籍したいと申し出る選手、保護者が、クラブ側から様々な理由をつけられ、移籍ができないようになっているのでしょうか。取材を進めて行く上で、明らかになった理由が2つあります。

1つ目が「移籍について、正しい情報がわかりやすく開示されていない」というものです。今回の件は、都道府県少年サッカー連盟の関係者に取材をしたことで、移籍について書かれたガイドラインを入手することができましたが、いち保護者がこの情報を入手するハードルは高いです。

また、そもそも指導者側がこのガイドラインの存在を知らないこともあり、その結果、独自のルールを設けてしまうことがあります。それを防ぐためには、いま一度、告知や周知の徹底が求められると言えるでしょう。

2つ目が「制度上の問題」です。とくに、こちらの問題が大きいのではないかと考えています。

日本サッカー協会に加盟している都道府県のサッカー協会においては、日本サッカー協会が定める移籍のガイドラインに則った行動が求められますが、都道府県協会とつながりのない、市区町村の連盟に関しては、ローカルルールが生まれやすい現状があります。

こちらで調べたところ、Z県某区の少年サッカー連盟の規約には「原則として、年度内の選手の移籍は認められない。但し、転居等止むを得ない事情に関しては考慮される。その扱いについては役員会において決定される」と書かれています。

「原則として、年度内の選手の移籍は認められない」と、日本サッカー協会や当該の都道府県連盟がアナウンスしている例とは反することが、連盟の規約として謳われているわけです。しかし、市区町村の連盟として独立しており、日本サッカー協会や都道府県協会とつながりがないため、日本サッカー協会にこれを是正する効力はなく、市区町村連盟内でローカルルールが生まれてしまうという現状があります。

 

◆移籍について、ドイツ・バイエルン州の事例

それでは、どのようにすれば、プレイヤーズファーストの観点から、選手の移籍がスムーズに進むようになるのでしょうか。ひとつのアイデアを紹介したいと思います。

こちらは、ドイツで14年間に渡って指導をした経験を持ち、バイエルン州のある町クラブでは7チームを預かるユースアカデミーのダイレクターを務め、いろいろなケースの選手の移籍に関わった経験を持つ、日本人指導者の方からの意見です。

「この件はクラブが定義する、ないしは解決する問題ではないと思います。何故ならば、私が16年間暮らしたドイツでは、ドイツサッカー協会と各州のサッカー協会が、移籍に関しての規則を定め、運用しているからです。ドイツでは成人でも小学生でも、移籍できる期間はシーズンとシーズンの間の移行期とウィンターブレイクの2回あります。これ以外のタイミングで移籍した場合、自動的に3カ月間の出場不可となります。また、移籍期間内に移籍したとしても、元のクラブが移籍に同意しなかった場合、やはり3カ月間の出場不可となります。

移籍期間内の移籍で元のクラブが移籍に同意した場合(19歳以下では、多くの場合こうでした)、州サッカー協会選手証管理部での移籍手続きが済み次第、新しいクラブで練習試合と公式戦へ出場することができます。ただ、もし元のクラブで過去6カ月間公式戦へ出場しなかった場合には、いつ移籍しても新しいクラブですぐに出場することができます。

このような移籍に関するルール作りと運用は、クラブ同士で行うものではなく、日本サッカー協会が定めるべきものと考えます。その運用のベースとなるのは、選手証の発行と管理だと思います。

バイエルン州サッカー協会では、選手証の裏面に「移籍に対してのクラブの言明」として「同意する」と「同意しない」のどちらかに×印(日本のチェックマーク)をつけます。練習試合と公式戦に分けて、出場可能となる日の記載があり、ドイツは本当に厳格な国だと感じました。

この選手証がないと、協会へ移籍の手続きを申請できませんが、もし前所属クラブが選手証を渡すことを拒んだ場合、協会からのお達しにより選手証を協会へ提出させ、併せて罰金(協会が徴収)を課すことができます。

その方法を知るまでは、自分の所(新しいクラブ)へ来ている選手の選手証を、前所属クラブのアカデミーダイレクターへ何度も連絡を入れて、渡してもらえるようお願いするという、再三再四の努力が必要なケースもありました。

ちなみに指導者ライセンスの講習でも、選手証の運営と移籍に関しては『管理、運営』という受講項目の中に含まれ、筆記試験が行われます」

 

<バイエルン州サッカー協会発行の選手証>

選手証5

バイエルン州サッカー協会発行の選手証。日本語解説は提供者。(個人情報保護のため、一部処理を施しています)

 

今回はドイツ・バイエルン州の例を紹介しましたが、先ほど挙げた「選手移籍の制度上の問題」を改善するために『プレイヤーズファースト』の観点から、日本サッカー協会を頂点に、都道府県サッカー協会、市区町村連盟ともに共通の『移籍についてのガイドライン』を設け、サッカーに関わるすべての人が「選手の移籍は、このルールのもとで行われる」という共通認識を持つことが重要ではないかと思います。そうすることで、ローカルルールが生まれない環境を作ることができるのではないでしょうか。

少年サッカー移籍問題については今後も掲載していく予定です。次回はスペインとイングランドの事例を紹介します。(第5回はこちら)

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