2016.06.08 Wed

Written by EDGE編集部

インタビュー&コラム

ドイツ流のタテ突破とスペイン流のヨコ展開、どっちがいいの? サッカードイツ流『タテの突破力』著者インタビュー

2016年5月に出版され、話題を呼んでいる、サッカー・ドイツ流『タテの突破力』(中野吉之伴 監修・清水英斗 構成/池田書店)。監修の中野さんは、ドイツサッカー連盟公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)を持つ現役の指導者だ。「ドイツで実際に行われている指導をベースに、攻撃の組み立て方と練習方法を解説する」というコンセプトの本書は、どのようにして作られたのだろうか。担当編集の中村僚氏によるインタビューをお届けしたい。

中村:今回は本当にお疲れさまでした。中野さんが書籍を出されるのはこれが最初ですが、何が一番大変でしたか?

中野:練習メニューに関しては、書籍自体のテーマが「タテ」とはっきりしていたので、そこに必要な要素をちりばめていくだけでした。となると、実際にチームに課している練習を形に起こしていくだけだったので、あまり苦労はしませんでした。少しだけあるとすれば、この本のメニューの多くは「相手の守備の状況が整っている」ことが前提に立てられているメニューなので、そうではない場面をイメージしたメニューを組み込んだことですね。最終的には上手くバランスがとれていると思います。

中村:この本には全部で92個の練習メニューが掲載されています。このうち、この本用に新しく考えられたメニューはいくつあるのでしょうか?

中野:正確にはわかりません。多くは普段からやっているものですが、この本に合わせて少しだけアレンジを加えているものも多いです。例えば3章の「ビルドアップ①」で紹介したものと同じ形の練習は普段から行っています。しかし単純なパス回しの練習も、目的によって身体の向きを変えたり、パスを出す位置を微妙に変えたりします。

中村:そうなんですね。

中野:「ビルドアップ①」の「STEP1」では、B(ボランチ)が遊びを作る動きをしますが、目的をサイドアタックに置き換えるなら、Bがサイドハーフと仮定して、相手のマークを外す動きをしてもいいわけです。普段から同じ練習はあまり繰り返さないようにしています。たとえ同じ形でも、微妙に形や距離を変えますね。この本の練習も、そっくりそのまま真似るのではなく、読者のみなさんがどんどんアレンジを加えて、これをベースに自分のアイディアを発展させていってほしいですね。

中村:そのあたりのアレンジの仕方も、この本では触れていますよね。4章の「練習メニューの組み立て方」はそれにあたります。僕はこの「練習メニューの組み立て方」が入っているのがすごく良いなと思うんです。3章で100個近いメニューを紹介していますが、それを投げっぱなしにするのではなく、どう組み立てるのかという考え方まで言及しているのはものすごくいいと思いました。メニューの選択肢がたくさんあっても、それを間違って選んでしまったらもったいないじゃないですか。それを選ぶ基準を打ち出せたのは良かったですね。試合の状況から逆算して考える、年間計画を立ててそこに向かって練習を組み立てる、などは、仕事にも共通することだと思いました。

中野:ドイツ人指導者と話していてよくあるのは、日本人指導者の準備は細かすぎると。10分区切りでメニューを変えて、その通りにこなすことが良いことだと思い込んでいると。実際は、練習の成果が出ていなければもっと時間をかけて成果を出すべきです。オーガナイズはとても大切なことですが、その通りにすべてを進めるのが良い練習ではありません。練習や試合の中で課題が見えたのであれば、その解決に努めるのが良い練習のはずです。私も練習前にメニューは考えますが、半分以上はやらないまま終わりますよ(笑)

 

◆ドイツではオフシーズンに森を走る

中村: 同時期に『サッカースペイン流 ヨコの展開力』も発売されました。ウチの社内では「結局タテとヨコ、どっちがいいの?」と話題になっています(笑)

中野:難しいですよね。Tシャツを買いにいって「ボーダーとストライプどっちが良いの?」と言っているのと同じことだと思いますよ(笑)

中村:確かに。「お好きな方で」って話ですよね(笑)。それはサッカーの難しいところでもありますよね。選手の特徴に合わせて戦術は変えるべきだし、相手の実力やグラウンドのコンディションにも影響されますから。状況によって使い分ける力が必要なんですよね。

中野:オシャレにしたって、カジュアルにジーパンと無地のシャツが似合う場所もあれば、ジャケットでビシッと決める方が良い場所もあります。その使い分けですよね。サッカーも本来ならそれくらいシンプルな話なのですが、小難しく考えると「タテとヨコどっちがいいの?」と考えがちなのかもしれませんね。

中村:載せきれなかった話もありますよね。ドイツはオフシーズンに森を走るとか。

中野:もはや響きがずるいですよね(笑)。「森を走る」と言われただけで面白い。ドイツはオフシーズンに森の中を走るチームが多いんです。グラウンドのすぐ横に森があることも多いですから、その中を走って気分を高めます。トレーニング理論が発達し、グラウンドでボールを使った技術や戦術と組み合わされたコンディショントレーニングをやったほうがいいと主張されても「まずは体力」と森に消えていくことが多いです。協会の講習会でも練習メニューの一つとして紹介されるくらいオーソドックス。

先日、ドイツ人の友人が面白い話をしていました。監督から「土曜日の12時に集合。ザウフェンしにいくぞ」というメールが来たらしいのです。「ザウフェン」とは、ドイツ語で「飲み歩く、飲み明かす」という意味です。飲んだ後にまだ元気があればサッカーをすると。

当日は普段以上の人数が集まって、最終的に20人を超えたみたいなんです。ところがふたを開けてみたら、監督が「ごめん、ザウフェンじゃなくてラウフェンだ」と。「ラウフェン」とは、ドイツ語で「走る」という意味。つまり、午後は体力トレーニングをした後に、夜からサッカーをするという意味だったのです。飲み明かして1日楽しく過ごすつもりで集まった選手たちが、マラソンをしてさらにサッカーするという過酷なトレーニングになってしまったんです。

中村:それは(笑)

中野:普段から厳しいトレーニングを課す監督が当然どうしたんだろうと不思議がっていたら、打ち間違いのメールだったというオチです。

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企画当初は「日本人選手はなぜ、海外で苦労するのか」というテーマだった

 

 

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