2015.12.31 Thu

Written by EDGE編集部

育成・トレーニング

【サッカー小説】「この街の光」(3)作・衛藤圭/企画・原案 PLAY MAKERプロジェクト代表 三橋亮太

サッカー選手のためのマッチングサイト「PLAY MAKERプロジェクト」(http://playmaker.jp/)代表で、元・長野パルセイロ選手の三橋亮太氏が原案を作り、2012年に「僕たちのブルーラリー」で朝日学生新聞社児童文学賞を受賞した衛藤圭氏による、サッカー小説を全3回に分けてお届けします。

【第1話はこちらから】

【第2話はこちらから】

昼間の大地は、大高村でコミュニティバスの運転士として働いている。

このバスは村役場から周辺の公共施設をめぐり、県道を通って山の奥まで向かう。使われている車は20人乗りのマイクロバス、一日の本数も往復で六本と少ないが、お年寄りや学校まで距離がある子供達にとっては大切な足となっている。

チームの紹介でたまたま縁があって就いた仕事だったが、おかげでこの村の地理に詳しくなったし、常連である乗客たちともすぐに顔見知りになれた。

そうして早く村になじむことができたのは、一人暮らしだった彼にとって幸いだった。

午後一時。いつものように役場を出発し、停留所をまわる。

小学校前の停留所が見えてきた時、大地は思わず目をみはった。

下校時間にはまだ早いはずだが、停留所の前にはたくさんの子供が待っていた。バスを停めてドアをあけると、低学年の男の子が元気良く飛びこんでくる。

「大ちゃん、よろしくねー」

彼はなれなれしい声をかけて、一番前の座席にすわった。毎日のようにバスを使っている彼も、続いて入ってくる子供たちとも、大地はすっかり顔なじみだった。

「今日は帰りが早いな。何かあったのか?」

「先生たちの勉強会とかで、午後の授業がなかったんだよ」 

さっきとは別の子供がこたえる。これで謎の一つがとけたが、大地にはもっと気になる謎がまだ残っていた。

どんどん入ってくる子供達も元気良くあいさつをしたり流行のギャクを披露したりと、みんな親しげだ。早く学校が終わって嬉しいのか、テンションも高い。

だけど最後に入ってきた少年だけはちがっていた。彼は緊張したような顔を一瞬向けただけで、すぐに奥へ進んでいった。大地は思わずふり返り、確かめるようにその後姿を見る。

その少年は間違いなく、七尾俊だった。

俊の家は学校から充分に歩いて行ける距離で、今までこのバスに乗ってきたことは一度もなかった。なにか理由があるにちがいないと、大地はすぐに確信した。

停留所で停まるたびに子供たちが降りてゆき、住宅地を過ぎる頃には小学生は俊だけになった。バスはさらに山あいの一本道を進み、温泉を利用した入浴施設につくと、他に乗っていたお年寄りたちもみんな降りていった。

二人きりになったところで、大地はやっと俊に話しかける。

「おい、この先は高原の放牧場まで何もないぞ。牛でも見に行くのか?」 

今まで仕事中の大地に遠慮していたのだろう。話しかけられた俊はそっと席をたち、会話しやすい距離まで近づいてきた。そして、小さな声で話しかけてきた。

「実は、木嶋さんに話したいことがあって…」

それを聞いた大地はまず、コンパニエイロスのユースの話かと思った。だけどその意思を伝えるのは、今度の練習でも充分に間に合うはずだ。

「へえ、なんだそれは。良い話か? 悪い話か?」  

「良い話です」

大地は少し顔をあげて、ルームミラーにうつる俊を見る。その表情は前とはまるで違い、興奮をおさえているような笑みが浮かんでいた。

「どうしたんだ?」

「この前、お兄ちゃんとひさしぶりに電話で話をしたんです。そしたら…」

ますます嬉しそうに、俊の口が左右に広がっていく。大地は急カーブの多い山道に注意をしながら、次の言葉にじっと耳をかたむけた。

「お兄ちゃん、またサッカーを始めていたんですよ!」

大地の顔がぴくりとこわばる。ついハンドルをきりすぎてしまい、タイヤがきしむような音をあげた。

俊はそれから、大地に詳細を語りはじめた。

大地に従兄弟の話をしたことで、俊は彼のことが懐かしくなったという。どうしているのかひさしぶりに聞きたかったこともあり、俊は次の日に従兄弟の携帯に電話をかけてみたそうだ。

軽く会話をかわしたあと、俊はおそるおそる「もうサッカーはやっていないの?」と聞いてみた。そしたら良い意味で、彼の予想を裏切る返事がかえってきたという。

昨年に大学へ進んだ従兄弟はやはり、サッカーから離れた生活を送っていた。しかし二年に進級したタイミングで突然サッカー部に入部し、今も続けているという。

彼がすっかりあきらめていたはずのサッカーの世界に戻った理由は、聞かなかったらしい。俊にとっては、従兄弟がまたサッカーを始めたという事実だけで充分だったのかもしれない。

「そうだったのか。でも、どうして今までそのことを話さなかったんだ?」

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