2015.12.15 Tue

Written by EDGE編集部

Jリーグ&国内

【サッカー小説】「この街の光」(1)作・衛藤圭/企画・原案 PLAY MAKERプロジェクト代表 三橋亮太

もっと力強く、もっと貪欲にボールに喰らいついてくる相手とぶつかった時、彼のプレーはどのような化学反応を起こすのだろう? 大地の中には、それを目にしてみたいという純粋な欲求があった。原の中にも、少なからず同じような気持ちはあるはずだ。

大人の、それもサッカーに深く関わってきた大地たちにそんな思いを抱かせるという時点で、彼はもう魅力的な選手の素質をあらわしていると言っても良いのかもしれない。

そんな自分たちの思いが伝わればいいのだが。願いつつ、大地はまた口をひらく。

「正直な話、ここではお前の才能を測ることは難しい。そのためには、もっと上を目指してみる必要があるんだよ。だから…」

話の途中で、ふいに俊が顔をあげた。

その瞬間に、大地は言葉を失った。思いもよらない俊の表情に、不意をつかれてしまったからだった。 

にらみつけている、とさえ言ってもいいのかもしれない。それほどまでにするどいまなざしで、俊は大地の顔をまっすぐ見つめている。理由までは分からなかったが、大地は胸の底のほうからじわじわと、嫌な予感がせり出してくるのを感じとっていた。

「必要なんて、あるの?」

唐突な俊の言葉は矢のようにするどく、大地の心に突き刺さった。

「必要って、それは…」

「木嶋さんが言ったことだよ。当たり前みたいに言うけど、どうして上を目指さないといけないの? 失敗して、後悔するかもしれないのに」

大地の口から声が出てこない。いやそれ以前に、頭の中でそれにこたえる言葉が浮かんでこない。質問があまりにもシンプルだったからこそ、大地はすっかり虚をつかれてしまった。

向かい合う俊との間に、実際以上の距離が開いているように思えてくる。そのすき間を、いつのまにか冷たくなった夜の風が通り抜けていった。

「…深く考えすぎだ。いちいち悩まずに、まずは試してみればいいじゃないか。やらない後悔よりも、やって後悔するほうが大事だぞ」

「僕はやりたくないです。後悔するサッカーなんて」

俊の言葉に、大地はまたどきりとした。

さっきよりも重たい声。険しさをましたまなざしも、小学生とは思えないほどだった。まるでその「後悔」がどんなものかをすでに知っているかのようで、大地は何も言い返せない。心に刺さった矢が芯にくいこんでくるような気持ち悪さがあった。  

「すいません。木嶋さん」 

「いや、大丈夫だ」

困惑しているのが伝わったのだろうか。俊がすぐ謝ってきたことにほっとした自分が情けなかった。

俊が心根の優しい少年であることは、彼のセンスに気づいた時と同じくらい前から知っている。それは人としては大切でも、プレイヤーとしては時に短所となるかもしれない。

とにかく今のやり取りで、俊の反応が普通じゃないことだけははっきり分かった。落ちつきをとり戻した大地はもう一度しっかり俊に向き合い、そしてたずねた。

「お前の意思が固いのは分かった。じゃあ、一つ教えてくれ。お前がそこまで不安になるのは、何か理由があるのか?」

おだやかな声でたずねると、俊はためらうように視線を泳がせる。

しばらく時間がたって、俊はやっと口を開いた。そして、ぽつり・ぽつりと語りはじめる。そんな彼の声をしっかり聞きとめようと、大地はじっと耳をすませた。

その間、古いスタンドの中で何度となく白い光がまたたく。そのたびに大地の脳裏には、大きな光を目指し、薄い羽を焼かれていく虫のイメージがちらついた。

「…そういうわけなんで。ごめんなさい」

「なるほどな。分かった、ありがとう」

俊は深く頭を下げて、大地の横を通り過ぎていった。大地も呼び止めることはなく、その場に立ちつくしたままうなだれる。一人で片づけを始めていた原が、両手にカラーコーンをさげて近づいてきた。

「なんだ、駄目だったのか」

「はい。すいませんでした」

大地の表情を見て、すぐに悪い結果であると分かったようだ。彼を元気づけるように笑いかける原だが、肩を落として歩く姿はさすがに残念そうだ。

「もったいないな。上の環境でプレーをすれば、俊の力はもっと開花すると思ったのに」

「そうですね。だけど…あいつをしばっているものは、環境だけではないみたいです」

大地はグラウンドから遠ざかっていく俊の後姿を眺めながら、力の抜けた声でつぶやいた。

「バチッ」と何かが弾ける音がする。大地の視界のすみでまた、白い光がかすかにまたたいた。

(第2話に続く)

作・衛藤圭/企画・原案 PLAY MAKERプロジェクト代表 三橋亮太

「PLAY MAKERプロジェクト」

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