2015.12.15 Tue

Written by EDGE編集部

Jリーグ&国内

【サッカー小説】「この街の光」(1)作・衛藤圭/企画・原案 PLAY MAKERプロジェクト代表 三橋亮太

サッカー選手のためのマッチングサイト「PLAY MAKERプロジェクト」(http://playmaker.jp/)代表で、元・長野パルセイロ選手の三橋亮太氏が原案を作り、2012年に「僕たちのブルーラリー」で朝日学生新聞社児童文学賞を受賞した衛藤圭氏による、サッカー小説を全3回に分けてお届けします。

夕暮時の燃えるような朱はあっという間に山の端へとうつろい、空はもう夜を告げる濃い青色で満ちていた。そのおとずれは少しずつ冷たさを増す空気と一緒に、日を追うごとに早くなっているようだ。

そんな空の中を「ふっ」と、ふいに白い光がまたたいた。木嶋大地はふと顔をあげて、コートの一角に目をこらす。

そこには長い支柱の上に円形のライトが縦三×横二列の形で並んだ、ナイター用の照明が立っている。

このグラウンドは今から20年ほど前に県外からの合宿客を見こんで設営された宿泊施設のなごりで、決して新しいと呼べるものではない。

六つあるライトの一つは蛍光管が切れ、残りの半分以上もその後に続くかのように弱弱しい明滅をくり返している。

そんな光の前を、無数の小さな虫が飛びかっていた。

その姿は、ここからではあまりに遠い。しかし仮に近づいて見たとしても、彼らの名前までは分からなかっただろう。大地にとって確かだったのは、そのどれもが夢中になって、同じ光を目指しているということだけだった。あるものは白い扇形の羽を、またあるものは透明な細長い羽をせわしなく動かして、光の前にむらがっている。

その中の一匹が光に吸いこまれるかのように、明滅する蛍光灯に近づく。次の瞬間「パチッ」とか細い音があがり、白い光がはじけた。

虫が蛍光灯にぶつかって、軽いショートを起こしたようだ。ぼんやりとながめている間にも、同じような光景は二度・三度とくり返されていった。

大地はふと、そうして光にぶつかっていった虫たちのその後を想像する。

ささいなショートでも、あの虫たちにとっては致命的なダメージにちがいない。飛ぶ力を失って落ちていった彼らに、再びあの光を追いかけるチャンスはあるのだろうか。彼らが落ちた地面の上を少年たちの蹴るボールやスパイクが踏みつけていくのは、もはや時間の問題だ。

「…おい、大地。聞いているのか?」

「えっ?あ、はい。すいません、原さん」

隣に立つ原の言葉ではっと我に返った大地は、とりあえず謝った。

五つ年上の原は彼の言葉を信じているのかいないのか、大きく息をついた後で視線をそらす。二人の前にはラインもひかれていない芝のグラウンドが広がり、その上を赤と白のビブスをつけた少年たちがボールを追って駆け回っている。

しかしボールは彼らの間を右往左往するでもなく、ほとんどまっすぐにグラウンドをつらぬいていく。大地の目は自然と、そのボールを操る一人の少年を追っていた。

「お前はどう思う?七尾俊のこと」

無駄のない動きで赤ゼッケンの相手選手を抜いていく少年の姿に、原の声がかさなる。大地はさっきまでの原の話を思い出して、口をひらく。

「僕も同感です」

「だろうな」

原がこたえた時にはすでに、俊は赤ゼッケン陣営のゴール前にせまっていた。

すっかり戦意を喪失しているゴールキーパーの前で、俊が右足をわずかにふりあげる。足の内側からぽんと弾かれたボールは大きな弧を描き、キーパーの頭上を通過してゴールネットを揺らした。

「吉田ぁ、びびんなあ! 腰いれて守れよ!」

原がすかさず激を飛ばすが、ふり返ったゴールキーパー吉田の半泣き半笑いの表情は、無言で「ムリっす」と語っていた。

審判役の子供がホイッスルを短く鳴らし、得点の表示をめくる。4対0。白ゼッケンのリードだった。

10人ずつのチームを分ける時に聞こえてくる「このじゃんけんに、すべてがかかっている」という冗談を、大地と原は素直に笑うことができなかった。たしかに練習の最後にいつも行っている20分間のミニゲームの勝敗は、七尾俊という背番号10の選手一人に大きく左右されてしまう。

長野県大高村にあるサッカーチーム「ビエント大高」の選手である大地は、先輩である原に誘われて週に一回、地元の少年サッカーチームの練習を手伝っている。

それから半年近くがたった。つまり大地はそれだけの期間、俊の突出したプレーを目の当たりにしていたことになる。そう考えるとさっきの話は自分たちから、それももっと早くに告げるのが普通だったかもしれないと大地は思う。

ミニゲームが終わり、少年たちが一ヶ所に集まる。

ビブスをはずすと今までの敵味方の区別はなくなり、みんな屈託のない笑顔を浮かべて言葉をかわしあっている。

それは七尾俊も同じだった。「吉田ぁ、びびんなあ」と原のモノマネをしている彼の姿からは、ついさっきまで一騎当千のごとき活躍を見せていたトッププレイヤーの面影を見つけることはできない。しかしそこがまた彼の非凡さの証拠であるかもしれないと、大地は確信を強めずにはいられなかった。 

最後に原と大地が今の試合の感想と改善点を伝えて、今日の練習が終わった。

大地は帰りのしたくを始めている俊を呼び止めて、彼をグラウンドの脇に呼び出す。

「なんですか?木嶋さん」

きょとんとした表情に若干の不安をにじませて、俊はたずねる。大地はあえて笑顔を浮かべて、彼に話しかけた。

「お前、このチームはどうだ?」

「え?楽しいですよ。友達もたくさんいるし」

「そういう意味じゃない。今のプレーで満足しているのかってことだ」 

大地の言葉を聞いて、俊の表情がぴんと張りつめた。

「…ま、満足してるっす」

「ウソだろ」

俊の表情がさらにこわばり、逃げるように大地から視線をそらす。

こいつ、わかりやすいな。ふき出してしまいそうになる一方で、彼がこんな反応をしめす理由が分からない。その違和感は、原からこの件について話を聞いた時からずっと感じていたものだった。

「コンパニエイロスのJrユースの話、原さんから聞いたぞ」

大地は笑みをくずさず、俊に本題をきり出した。

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