2015.12.01 Tue

Written by EDGE編集部

育成・トレーニング

サッカーで速く、強くプレーするためのコツとは? 日本式“ひざ歩行”と欧米式“腰歩行”の違い

練習は週に3回、1回の練習は60分~90分という限られた時間の中でトレーニングを積み、全国大会出場を成し遂げた、静岡県の聖光学院高校ラグビー部。同校の外部コーチとして、『練習外の時間』をトレーニングに当てるという逆転の発想でフィジカルを向上させたのが、常葉大学陸上部監督の里大輔コーチだ。(前回の記事はこちら)。里コーチの専門種目は陸上で、今年の和歌山国体では、4×100mリレーで全国優勝を果たすなど、確かな実績を残している。ラグビーでは、U-17、18日本代表チームのスペシャルコーチとしても活動。サッカーではドイツ・ブンデスリーガでプレーする、山田大記選手(元ジュビロ磐田・背番号10)のパーソナルコーチを務めている。

海外でプレーするサッカー選手は「自分より速くて、デカイ」相手と戦わなくてはいけない。里コーチは「1日で体重を100kgにするのは無理ですが、体の使い方を変えることで、互角に戦うことはできます」と断言する。

「たとえば、サッカーの球際の競り合い。進行方向に体をぶつけながら、相手より一歩前に出るプレーですが、この場面で重要なのは筋力、脚力ではなく、バランスとタイミングです。身体のバランス、動き出すタイミングが良いほうが、優位に立つことができます。ラグビーもサッカーもそうですが、走っているときに、かかとに重心が乗った状態で強く押されたら、いくら体重があっても耐えることができません。大切なのは重心をどこに置くか。体重の軽い日本の選手は、とくに意識すべき部分だと思います」

自分の持っているパワーを、最大限発揮するための重心。それを里コーチは「ゼロポジション」と呼ぶ。そして、ゼロポジションはトレーニングで身に付けることができるという。

「トレーニングで重心を意識し、正しいポジションを獲得することは、それほど難しいことではありません。逆にゼロポジションを身につけていないと、いくら筋肉をつけてもスピードが出ず、バランスを崩して当たり負けすることがあります。私はサッカー選手やラグビー選手に走り方の指導をしていますが、ヨーロッパのトップレベルの選手は、当たり前のようにゼロポジションを保ちながら、プレーすることができています」

◆ドイツで感じた、日本の子どもとの違い

里コーチは時間をみつけてはヨーロッパに飛び、サッカーの育成年代のトレーニングを見て回っている。武藤嘉紀選手が所属する、マインツ(ドイツ・ブンデスリーガ)に視察に行ったときは「小学生が大人のように動く」ことに衝撃を受けたという。

「ドイツでは小学生年代でも、大人と同じような身体の使い方で、激しくぶつかり合いをしていました。転び方も、日本だと子どもらしい転び方というのがありますが、ドイツでは、子どもも大人と同じような身体の使い方で転んでいました」

日本の子どもとドイツの子どもの違いはどこにあるのだろう。里コーチは「一番の違いは、股関節の曲げ伸ばしにあります」と言う。

「日本人は昔から、地面に座る文化でした。そのため日常生活の中で、ひざを曲げ伸ばしする回数が非常に多いのです。一方の西洋人は椅子に座る文化なので、ひざではなく股関節の曲げ伸ばしで歩きます。一般的に日本人はひざ歩行、西洋人は腰歩行と言われています。ゼロポジションをキープするためには、ひざを曲げるのではなく、股関節の曲げ伸ばしで動くことがポイントになります」

そう言うと、里コーチは「実践してみましょう」と言って立ち上がった。

「ひざが曲がった状態でかかとに重心を乗せてください。その状態で正面から押してみますね」。そう言うと、筆者の身体を正面から両手で押す。軽く押されたのに、踏ん張ることができずにバランスを崩してしまった。

里コーチは言う。「これが、ひざ歩行のときに起きている現象です。次に両足を肩幅に開き、足の裏の中心に重心を置いて立ってみてください」

その状態で正面から押されたが、バランスを崩すことなく、持ちこたえることができた。つまり、ひざ歩行と腰歩行では、このぐらいバランスに違いがあるのだ。

◆芝と土では、適切な身体の動かし方が異なる

里コーチは「日本人とヨーロッパ人の姿勢、走り方の違いは文化だけでなく、環境面も影響しているのかもしれません」と言う。

「日本には人工芝のサッカーグラウンドが普及してきましたが、小学生の多くが土のグラウンドでプレーしていますよね。土の上で動く場合、ひざから下を動かして、地面をひっかくような動きをしないと進まないんですね。一方、芝の上でプレーするときは、地面をひっかくような足の動かし方をすると、芝に引っかかってしまいます。そのため、芝の上でプレーするときは、真上から踏み込む動きをすることがポイントになります」

つまり、土のグラウンドや学校の校庭など、砂まじりのグラウンドでプレーするときと、芝のグラウンドでプレーするときは、異なる身体の動かし方が必要になるのだ。

「これはあくまでも仮説ですが、日本人は文化的にひざ歩行であることに加えて、土のグラウンドでプレーすることが多いので“芝の上を移動する際に必要な身体の使い方”が身についていなのではないでしょうか」

◆中田英寿氏の身体の使い方はお手本

そんな中にも例外はいる。里コーチはひとりの元日本代表選手の名前をあげた。

「中田英寿さんの動きは完璧でした。常に上体が起きていて、移動をする際に重心を捉えています。中田さんのすねを見るとわかりますが、常にすねが立っていて、進行方向を向いているんですね。すねが立っているというのは、ひざが曲がっていない証拠です」

中田英寿氏で思い浮かぶのが、トルシエ監督時代、雨中のサンドニでフランスに大敗した試合だ。多くの選手がぬかるんだピッチに足を取られて、ズルズルとバランスを崩して滑っている中で、中田氏だけは何事もなかったかのようにプレーしていた。そのボディバランスは、フランス代表選手のようだった。(ジダンもアンリも、ぬかるんだピッチをものともせず、悠然とプレーしていた!)

単純に筋力を増やせば、当たりに強くなると言うものではなく、大切なのは効率的な身体の動かし方を身につけること。サッカーの技術、戦術を正しく実行するためにも、ベースとなる身体の動きの重要性に目を向けることが、日本サッカーのレベルアップにつながっていくに違いない。

<里コーチのスピードアップトレーニング詳細>

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