2015.04.28 Tue

Written by EDGE編集部

インタビュー&コラム

プロ総合格闘家・UFCファイター菊野克紀さんに聞く「屈強な外国人選手に勝つ方法」(1)

サッカー×格闘技。異業種ながら「世界を相手に戦う」というテーマは同じ。そこで今回は、屈強な外国人を相手に1対1で戦い、何度も勝利を収めている総合格闘家の菊野克紀氏に「世界で勝つための個」についてインタビューを敢行。フィジカルからテクニック、メンタルまで、驚くほど共通点のあるサッカーと格闘技について、エッジが効いたインタビューをお届けする。(聞き手 鈴木智之&フットボールエッジ編集部)

――今回はサッカーのフィジカルをテーマにお話を伺いたいと思っています。個人的な思いとして、W杯や欧州チャンピオンズリーグを見ていて、日本人選手とヨーロッパや南米、アフリカ系の選手を比べると、随分と体格差があると感じています。簡単に言ってしまうと、世界のトップレベルでプレーしている選手は身体が分厚いんです。菊野さんは総合格闘技(以下、MMA)の選手として、ブラジル人やアメリカ人といった屈強な相手に1対1で戦って勝っています。MMAは階級制なので、ある程度体重は近いですが『海外の選手の身体に近づけるために』という観点からトレーニングはするのですか?

菊野:僕の場合は、身体を近づけようとは思っていないんですね。そこで勝負をしようとは思っていません。ただ最低限というか、『技は力の中にあり』という言葉がありますが、力がなければ技もかからないですよね。ある程度の体力やフィジカルは必要で、そこに技が乗るイメージです。

――技を繰り出すための土台となるフィジカルがあり、その上にテクニックや戦略が乗ると。どういう考えで、その境地に達したのですか?

菊野:実はですね、日本で戦っているときは、フィジカルで負けることはほとんどなかったんです。いまはUFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ/アメリカに本拠を置く世界最大のMMAリーグ。日本のPRIDE等を買収)で戦っているのですが、5分、5ラウンドを全力で動くことのできる相手と戦うわけですよ。殴ってタックルして、寝技をかけて、それらをすごく高いレベルでやる。ここではいままでと同じ試合、同じパフォーマンスはできないと思いました。最初、映像を見たときに「無理だな」って思いましたね(笑)

――そこで、何から始めたのですか?

菊野:最初は悩むことから始まりました。苦しみましたね。彼らと同じことをしていたら勝てないので、自分にしかできないことは何か。オンリーワンになれることを探しました。当然、嫌々トレーニングをしても身につかないので、自分の好きなものを探しました。僕は武術や武道が好きだったので、研究というか勉強から始めて。インターネットで文献や映像を見たり、気になった先生には会いに行ったりもしました。自分なりに練習をして試して、失敗しての繰り返しをやってきて、ようやく3年前にこれだ! というものに出会いました。それが沖縄拳法空手です。

――色々なものを見て、沖縄拳法空手に出会ったわけですね。あまり馴染みのない武術ですが、それまで見てきたものと、沖縄拳法空手の違いはどこにあったのですか?

菊野:まず単純に威力が違いました。先生にパンチをくらっただけで、死ぬかと思うぐらい痛かったんです。先生のお弟子さんにもパンチをくらったのですが、それもめちゃくちゃ効きました。つまり、先生だけができる特別なものではなくて、だれでもできる、再現性がある。そこに惹かれました。理屈自体をざっくり言うと、『地面を蹴って腰をひねってパンチを出す』という常識ではなくて、『手から動いて身体がついてくる』という理屈なんです。オンリーワンの考え方で、こういうことをやっている人はいないので、これは面白いなと。他に研究されていないわけですから。あの、グレイシーってわかります?

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 『腕が出て、後から身体がついてくる』を実演する菊野さん

――ヒクソンやホイスを始めとする、グレイシー一族ですよね。

菊野:そう。彼らは20年ほど前に格闘技界を席巻したのですが、いまはそれほど勝てなくなってきているんですね。というのも、20年前にグレイシー柔術を知っている人はほとんどおらず、研究されていなかったので対応できなかったんです。でもいまや柔術は当たり前のものになって、みんな練習しています。だからグレイシーは飛び抜けた存在ではなくなりました。つまり、新しいものはチャンスなんです。だから、これなら20年前のグレイシーになれるんじゃないかと思ってやっています(笑)

――それほどパンチの威力が違うとは興味があります。

菊野:体験してみます? 軽くやりますから。

――えっ、あ…はい。せっかくなのでお願いします。

菊野:(編集部Mと向かい合い、座ったままの体勢でパンチを繰り出す)

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座った状態で腕を振り下ろして、左胸にパンチを当てる

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驚くほどの衝撃で悶絶する編集部M

 

――(胸を抑えながら)ぐっ…。想像していたより遥かに痛いです。これは効きますね…。座ったまま、予備動作のない状態で放ったパンチですが、めちゃくちゃ重いですね。

菊野:そうなんですよ。大丈夫ですか?

――(痛みをこらえながら)大丈夫です。『腕が先に出て、身体がついてくる』と言いましたが、それは蹴り技にも応用が可能なのですか?

菊野:もちろんです。全部に応用ができます。考え方としては『重心をコントロールする』『骨をコントロールする』ことが前提としてあり、その中にパンチという技術があるという形です。武術は筋力ではないんですね。大切なのは『いかに骨を正しく並べて、自分の重さを伝えるか』です。剣術であれば、持っている剣の重さをいかに相手に伝えるか。これを筋力に任せてやろうとすると動きが遅くなり、重さも伝わりません。そこで、いかにスムーズにスッと腕を動かすことができるか。そのためには脇を閉めて肘を正す必要があります。姿勢を正して、骨で立つんです。

<次ページ>正しく骨を並べるために行う、『型』のトレーニング

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